空合わせの恋路

□1話.幼き日の記憶
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グサッ



「………あれ?」



にぶい音はしたのに、痛くもかゆくもない……?

ゆっくりと目を開ければ…、



「アナタ……誰?」


私の目の前にいたのは、赤い帽子をかぶった同い年ぐらいの男の子。


彼は私に傷がないのを確認して、ほっ、と安心したような顔をすると、

「逃げるぞ!」

と言って私の手をつかんだ。


「えっ!?」


男の子が走りだしたから、必然的に私も走りだす。

それにつられたようにスピアーの大群も追いかけてきていた。




…でも、なんだかさっきより怖くない。

体の震えもいつの間にか止まってる。


この男の子がいるから…?



チラリと走りながら男の子のほうを見れば、少し赤みをおびた茶色い瞳がまっすぐ前を見つめていた。


私、変だ。


男の子とは初対面だし、相変わらずスピアーは追いかけてきていて、大変な状況なのに…。

なんでこんなに安心してるんだろう…?



つながれたままの手から、ただじんわりと温かいぬくもりが伝わっていた。













それからひたすら走って、たどり着いたのは見たこともない場所。

でも木がたくさんあるから、どこかの森…かな?


「はあ、はあ…なんとかまいたみたいだな…。ふうー…。」


男の子はヘタッとその場に座りこみ、服のすそで汗をぬぐった。



「はあ…、はあ…、」


私もしゃがみこんで息を整える。

走るのはあんまり得意じゃないから、けっこうキツい。


「大丈夫か?」

「う、うん…!」


突然声をかけられてビックリしたけど、とりあえず返事をした。

「そっか。よかった。」と言って、男の子はニッと笑う。

温かい、優しい笑顔だ。



「あの…、」


勇気を出して、今度は私から話しかけてみた。

すると男の子は「ん?」と言って私を見る。



「こんなに遠くまで来ちゃって帰れるの…?」


ここ、マサラタウンからずいぶん離れちゃったみたいだけど平気なのかな?

私、どっちの方向にマサラタウンがあるかさえ分かんないよ。



「もちろん!俺いつもこの辺り探検してるから、ここは庭みたいなもんだぜ!」


ニカッと笑う男の子。

いつも探検してるって変な子…。


そんなことを思いながら男の子のほうを見ていると、彼は何かを思い出したように手をポンっとたたいた。


「あっ!名前言ってなかった!俺、レッドって言うんだ!よろしくな!」

「あ…うん。私、イミテ。」


男の子の優しい笑みに、私も自然と笑顔がこぼれる。


「あの…、助けてくれて、ありがとう。」

「おう。びっくりしたぜ。歩いてたらスピアーの大群がすげー勢いで飛んでったからさ。あわてて追いかけたら…、イミテが襲われそうになってたのを見つけたんだ!」


レッドの口にした、イミテ、と言う名前の響き。
なんだか慣れてなくてくすぐったい。



「…って、レッド怪我してる!」


ふと、レッドの右腕に血がにじんでいるのに気がついた。

たぶんさっきのスピアーの攻撃から、私をかばって怪我したんだ…!



「ど、どうしよう…!」

「別にどーってことないよ。毒はないみたいだし、ニョロのおかげでかすり傷程度ですんだから。」

「ニョロ……?」


「ああ。こいつのこと。でてこい!ニョロ!」


レッドは腰につけていた赤と白のボール…モンスターボールを投げた。

ボールが開いてでてきたのは青と白の…、え!?ポケモン!?



「いやっ!!」


思わず後ずさりをした私を見て、そのポケモンは悲しそうな顔をした。



「イミテ、ポケモン嫌いなのか?」


「だ、大嫌い!乱暴だし…。すごく怖い…。さっきのスピアーだって…、私、何もしてないのに攻撃されたんだよ!?」



するとレッドはうーん…、と腕組みをして考えこむ。


やがて、

「それは違う気がする。ほら、ここ見てみろよ。」


と何かを指差した。



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