哀歓善戦

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「復讐するためには、今よりももっと力が必要だから…。この国の軍人になれば力が手に入って、そして…王を殺す機会もグッと増える。」

「だから、性別を偽ってまで軍に入ったってわけ?」

「はい。女は追い返されることは目に見えてましたから。」



たしかにこの国の軍隊に女はイミテしかいない。

よっぽど優れた能力がないかぎり、女は軍人にはなれないだろう。




「イエロー、たしかにここにいれば力も、王に近づく機会も手に入る。でも、周りからは『王の考えを理解して、だから手下になった』って思われるんだよ?」

「え…?」

「イエローの1番憎んでいる人の、仲間だと思われる。王と、同類だと思われる。それでもいいの?」



イエローは自分とは違う。

無理矢理この場所に連れてこられたわけでもなく、今ならまだ、後戻りができる。


血の匂いがしみこんだ城壁や、人を殺すために作られた武器に囲まれるこんなところよりも、
明るい太陽の光がふりそそぐところで生きてほしい。


自らこの世界に飛び込んでほしくはない。



イミテは、そう思っていた。




でも、


「…強くなりたいんです。どんな手段を使っても。」

イエローの決心は固かった。

迷いは、ないようだ。




「(だったら、私ができることは…。)じゃあ、イエローが強くなるまで、私が面倒みる。」

「!イミテさ、」


「でも1つ約束して。勝手な行動はしないこと。」

「え…」


「何かをやる前は、必ず私に言う。もちろん復讐の時も、ね。いい?」


「はい…!」



優しい表情とともにそう言ったイミテに、イエローは2つ返事でうなずいた。




イエローは、気づいていなかった。




この約束に、


「(イエローだけには背負わせない。復讐の時がきたら、私が…)」


イミテのそんな思いが隠れていたなんて。













イエローが城に来てから数日後。




「もっと右足をひいてから、力を一点にこめて!」

「はいっ!」


イミテの言葉に返事を返し、イエローはバッと足をあげて回し蹴りをする。

スパアンという音が辺りに響いて、木が少し削れた。


あれからずっとイミテの指導をうけていたイエローは、ある程度の護身術は使えるようになっていた。


イミテの武器は主に弓矢なのだが、実は武術も少しなら使える。

武器が手元にない時でも侵入者を捕まえられるように、と、王がタケシに命令して指導させたからだ。


…まあ、その時誰もが、王はイミテをとことん利用する気だと悟ったのだが。

それに気づいていながらもイミテは、武術も習っておいて損はないとすんなり受け入れた。



「だいぶ上達したね、イエロー。」

「えへへ。イミテさんのおかげです。」


照れくさそうに笑ったイエローに、イミテも笑みをうかべて言う。


「これで、新人考査もなんとかなるかな。」

「?新人、考査…?何ですか、それ?」


2人の間に沈黙が流れ、やがてイミテは頭をかかえた。



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