哀歓善戦

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その日の夜。


「ずいぶん無防備に寝るなー。イエロー先輩…。」


シオンタワーの陰で、苦笑しながらそう言ったのは、ゴールドだった。



昼間、薪を拾って小屋に向かった彼は、イミテに『必ず2人で行動で、見張りは2時間交替ね。』と伝えられた。

見張りは正直言ってめんどくさかったが、イミテに言われたため、彼は素直に頷いたのだ。


ゴールドは少なからずイミテを尊敬し、信頼している。

“仲間に、なろう?”

自分にそう言った時の彼女の瞳は、思い出す度に胸が温まるような、そんな、優しい瞳だったから。


信じてみようと思った、―…彼女を。



(おそらく見張りのことを伝えたのがグリーンだったら、彼はおおいに悪態をついていただろう)



今、見張り番をしているのは、ゴールドとイエローだ。

昼間は『ゴールドさんのことは任せてください!』と少し年上ぶっていた彼女だが、眠気に勝てなかったようですやすやと眠っていた。


ゴールドが男であることなんて全く気にしていないように、ぐっすりと。


「(ま、イエロー先輩らしいっちゃらしいけど)」



ゴールドはそんなことを考えながら上を向く。

曇っているのか星はまったくなく、かろうじて月がぼんやりと光っている。


「(そういえば……。)」


黄色く光る月を見ていたら、あるものを思い出し、ゴールドはポケットに手を突っ込む。

それはナツメと一緒にいた少女が落としていったイヤリング。



「(なくなったことに気づいて、必死に探してたりして……。)」



そんなことを考えながら、また空を仰ぐ。





その直後…。



タタタ…


誰かの足音が聞こえた。



ナツメが帰ってきたのだろうか?

イエローを起こそうかとも考えたが、まだ確信はない。


ゴールドは意を決して、息を潜め物陰からそっと様子をうかがうことにした。



「あ……」


そして、その人物の姿を確認した時、彼はつい小さくだけれど声をあげてしまった。


だって、今さっきまで自分が思い返していた少女がいたのだから。


癖毛なのか肩の高さで跳ねている2つ結びの髪。

水晶を埋め込んだような暗闇に映える色をしている瞳。


そして、左耳にだけある星形のイヤリング……。


間違いない、この前ナツメといた少女だ。




少女はゴールドの声に気づき彼のほうを向いたため、彼らはばっちりと目が合った。



ほんの一瞬、2人の間に沈黙が流れる。





「……っ!」


少女は我に返ったようにハッとなると、すぐに身をひるがえし走り去る。



「おい…!」


ゴールドもつられて彼女を追いかけた。



「……こ、こないで!」


それに気づいた少女はおびえたようにそう言うと、シオンタワーの中へと入っていく。


「くそっ…!」


『こないで』と言われて『分かりました』というバカ正直な彼ではない。


むしろ絶対捕まえてやる!と躍起になって、彼もまた吸い込まれるようにシオンタワーに入っていった。



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