哀歓善戦

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タンタンタン、と階段を上る音と、ハアハア、という乱れた息づかいのみが、不気味なこの建物に響く。


今は丁度3階あたり。

ゴールドと少女の追いかけっこは今だに続いていた。



「待てっつってんだよ!」


しびれを切らしたゴールドが、ヒュッと棍棒を一振りする。

すると微量の電流が、少女の足首にまとわりついた。


「きゃ!」


少女は痺れのせいで足がもつれて、小さな悲鳴をあげてその場に転んだ。


丁度3階の階段を上り終え、4階に差しかかった時のことだ。



「わりいな。でもアンタが逃げるから悪いんだぜ?」


ゴールドはそう言って手を差し出す。

しかし少女はそれを無視し、フイッとそっぽを向いた。



「かわいくねー奴!とりあえず、もう逃げるなよ。こっちは用があって追いかけてたっつーのに。」


ゴールドはそう言って、ひょいっと少女に向かって何かを投げた。

……イヤリングだ。



「え、これ…。」

「この前お前が消えた後に拾った。…大事なもんなんだろ?なくすなよ。」


左耳にだけついているイヤリングを指差してゴールドは言う。

片方なくしてもつけているなんて愛着があるんだろう、と彼は思ったのだ。



「ありがとう…。」


呟くようにそう言った少女。


しかしそれからはすっかり口を閉ざしてしまい、沈黙が続いた。



「……つーかさあ、」


見かねたゴールドが話し始める。


「お前なの?グリーン先輩…あー…、あのトゲトゲ頭のつり目な人、操ったの。」


ひどい言いようだが、ゴールドらしいたとえだ。



「……。」


「無言かよ。見ず知らずの奴には言えねーってか?そりゃあそうだよな、俺ら敵だし。」

「敵なのに…」

「あ?」


少女は下を向いたまま呟くように言う。



「……敵なのに…、どうしてわざわざ拾って届けたの?」

「なにが?」

「……イヤリング…。」


「ああ」とゴールドは声を上げ、続ける。



「…なんでかなー。自分でも分かんねえ。ただ何となく届けてやろうと思っただけ。まあ、気まぐれってことにしとけ。」

「変な人…。」


気の抜けたようなゴールドの言葉に、少女は呆れたようにクスリと笑った。



「俺はお前もなかなか変な奴だと思うぜ。」

「え…?」

「お前、笑ったほうが可愛いじゃねーか。何でそんな辛そうな顔してんだよ。」

「そんなことな「ある。…今にも泣きそうな顔してんぞ。」

「………。」


少女はまた、口を閉ざしてしまった。



「……お前さあ、何でナツメの仲間なんかになったんだよ?」

「……。」

「アイツらの噂はよく聞く。いろんなとこで悪事を働いてるってな。」

「……。」


「お前、本当にアイツらの仲間…なのか?」

「……………。」



口を閉ざしっぱなしの少女。

ゴールドは仕方ない、と思いながら、さっきとは打って変わって鋭い目つきで少女を見る。




「お前らの悪事のせいで迷惑してる奴がたくさんいるんだ。人傷つけて楽しいのかよ?黙ってるってことは肯定か?」

「……。」



「人の痛みがわかんねーなんて、最低だな。」



「!」




ゴールドの言葉に少女はバッと立ち上がり、彼の胸元をつかんだ。

その目には、涙がにじんでいる。



「あんな人達と一緒にしないでよ!私だって…、私だって本当はあんなことやりたくなかった…!私だって、もっと…「何をしている。」



少女の言葉は、第三者の声によって遮られた。



カッカッと、階段を上がる靴の音が高らかに響く。


ゴールドでも少女でもない、第三者の。



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