哀歓善戦

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「ナツメ…様…。」


少女の顔がみるみるうちに真っ青になっていく。



「クリス。お前、今何を言おうとした?」

「クリス……?」


ゴールドは思わず復唱した。

“クリス”……おそらく少女の名前だろう。


「あのことを忘れたのか?お前が刃向かえば、アイツは「嫌!ごめんなさい、ごめんなさい…!それだけは止めてください!ごめんなさい……!」


クリスは頭を抱えるようにして、ガクリと地面に膝をついた。



「おい、大丈夫かよ…!」

ゴールドは背中に手を置き、クリスの顔を覗きこむ。


ナツメはその様子を見ながら笑みをうかべた。


「そいつとずいぶん親しくなったものだな、クリス。」

「違います、これは…!」

「違うと言うのなら、お前の手でそいつを始末してみろ。」


ナツメはじっとりとした笑みをうかべる。



クリスはスッと振りかえってゴールドを見た。

悲しみと苦しみが溢れ出そうな表情で。



「できなければ……分かっているな。」



ナツメの言葉に、クリスの瞳は変わった。




クリスはゆっくり立ち上がると札を構える。

ゴールドはそれに反応し、距離をとった。


「お前、こんなことしたくないんじゃなかったのかよ!」

「……。」

「無駄だ。クリスは我が手足も同然。」

「そうかよ!だったら…!」


ゴールドは勢いよく地を蹴り、ナツメの元まで一直線にとんだ。



「だったら元凶を断ち切るまでだぜ!おりゃあ!!」


彼は力いっぱい棍棒を振り下ろしたが…。


「な…!」


それはナツメの体をすり抜けた。


「フフ…打撃攻撃は効かない。そんなことよりクリスに背をむけていいのか?」

「!」


クリスは無防備なゴールドに向けて、札をとばす。



が、それは横からとんできた何かによって、真っ二つにさけた。




振り返れば、そこには弓を手にしたイミテがいた。



「イミテ先輩…!」

「何やってんの!早くそこから逃げて!」



イミテの言葉に、ゴールドはバッとその場から離れる。

そしてイミテの隣りに並んだ。



「なんで、ここにいるんスか!?」

「冷えてきたからゴールドとイエローに紅茶でも渡そうと思って行ってみたら、ゴールドいないんだもの。イエローは寝てるし。心配になって様子見にきたけど…、正解だったみたいね。」


イミテはふう、とため息をつく。



「2人で行動が原則って言ったでしょ?」

「だってイエロー先輩、かなりぐっすり寝てて起こすのかわいそうだったし…。」

「言い訳しない!あの女の子の力は1人じゃ太刀打ちできないの。一瞬でも隙を見せて操られたら、そこで終わりなんだから。」


イミテはキッとクリスを睨む。

その瞳にとらえられてクリスの肩がびくりとはねる。



「そりゃあさっきは油断したけど…札ぐらい楽によけられるッスよ!次は…」

「違うよ。ただの札じゃない。」

「え…?」


「この前からずっと考えてたの。小屋で寝ていたグリーンに外から札が届くはずがない。」

「じゃあどこかから忍び込んだとか…。」

「ううん。そんなことすれば私かレッドが気配に気づくはず。でもあの時は怪しい気配は全くしなかった。あの女の子の札、普通じゃない。きっと何かをして札の動きを操ってる。」



イミテの推察を聞いていたナツメは「ほう。」と感嘆の声を漏らした。



「ゴールド。少しの間でいいから2人の攻撃をふせいで。ここから地面に矢をうって能力を使えば、たぶんイエロー達が気づいてくれるから。」


数メートル後ろにある窓をちらりと顧みてイミテは言った。

しかし、ゴールドが慌てて声をあげる。



「レッド先輩達には知らせないでください!なんとか俺らで…!」

「…何かあったの?」


ゴールドはそっとイミテに耳打ちする。


「あいつ、さっき何か言いかけてたんスよ。どうも悪い奴とは思えねえ。俺はそれを聞き出したいんス。人が多いと、話せるもんも話しづらくなるでしょう?」

「………。」

「お願いします!イミテ先輩!」



ゴールドは必死にイミテに訴える。

そんな様子を見てふっ、と彼女は口元をゆるめた。



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