哀歓善戦

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「……やっぱりゴールドは優しいね。」

「え?今、何て…」


イミテがあまりに小声でつぶやいたためよく聞こえず、ゴールドは聞き返そうとした。



直後、イミテが床に矢をはなち、ガサガサ…!という音とともに蔓でできた格子状の壁があらわれた。


それはイミテとナツメ、そしてゴールドとクリスの間にさえぎるようになっている。



「イミテ先輩!?」


ゴールドは驚きながら、蔓の向こうにいるイミテの名前を呼ぶ。

彼女は、静かに言った。



「さっきの戦い少し見てたけど、ナツメって人、打撃攻撃は効かないみたいね。」

「え?…まあ、そうみたいッスね。」

「じゃあ、こっちは私にまかせて。なんとかする。」

「1人じゃ危ないッスよ!それに2人で行動って、イミテ先輩が自分で…」


慌てるゴールドをよそに、イミテは軽く微笑む。



「あの女の子…、悲しそうな目してる。」

「!」


イミテもイミテで、クリスに何かあることを感じていたのだ。



「話、聞いてあげて。助けてあげて。」

「でも、」

「ゴールドならできるよ。信じてる。」


そう言ってゴールドを見つめるイミテ。

ゴールドはコクリと頷いた。



「俺もイミテ先輩のこと信じてるッスよ!ナツメのこと、こてんぱんにしてやってください!!」


元気よく言って、ゴールドは走りだした。



「クリス!鬼ごっこしようぜ!」


振り向いてニヤリと笑うと、彼は階段を使って上の階へと駆け上がる。




「いけ、クリス。始末しろ。」


動こうとしないクリスにナツメが命令すると、彼女は「……はい。」と言って、ゴールドの後を追った。




「さて、」


2人きりになったこの階。

ナツメがイミテに再び目を向ける。



「緑の能力者、だったな…。めんどうなことをしてくれたな。」


ナツメは格子状の蔓に手をやりながら言った。



「これでもう逃げられない。おとなしくサカキの情報をはいたほうが身のためだと思うけど?」

「やはりサカキ様のことをかぎまわっていたのは、お前達だったか。」


ナツメはフッと笑う。

そして鋭い目つきでイミテを見て、続けた。


「光の能力者の始末、というのが命令だったが…、邪魔者は早急に始末するべきだな。」


ナツメが左手をスッとあげると、イミテの近くにあった窓ガラスが割れた。


「!」


イミテは慌てて腕でかばったが、あいにくグローブをしていない側の腕だったので、少し切り傷ができた。


「(手を挙げただけだったのに…)」


武器らしいものは何も見えなかった。

では、ナツメはどうやってガラスを割ったのだろうか。


「まさかアンタも能力者…?」

「能力者…とは少し違うな。私は、生まれた時から、この体に不思議な力が染み付いていた。」

「不思議な力…。」

「そう。今みたいに心の中で強く念じれば、形になって現れる。言わば、超能力だ。」

「!じゃあ…前、私の弓を操ったのも、私の仲間を操ったのも、アンタってわけ?」


それを聞いてナツメは「さあな。」と笑った。


「無駄話はここまでだ。お前がここにいるということは、光の能力者も近くにいるんだろう?さっさと始末しに行かなければいけないからな。」

「始末?笑わせないで。私がそんなことさせない。」

「フフ…ずいぶんと自信があるようだが、そういう奴にかぎって返り討ちにあうものだ。お前は私に勝てない。」

「やってみなきゃ分からないでしょ!」


イミテは勢いよくそう言うと、矢を1本、何の前兆もなく放った。

それは真っ直ぐ、ナツメの真っ正面にとんでいったが…、



「無駄だ。」

「!?」


後数センチ、というところでピタリと止まった。


そして弓は反転し、矢をうった本人であるイミテに向かって飛んでいく。



「っ!」


イミテは驚きながらもそれをギリギリのところでかわした。



「お前の媒介は、弓。弓は矢をとばす。矢がお前の手元から離れた時点で、私はそれを自由に操れる。」

「!」

「言っただろう?お前は私には勝てない。」


ナツメは弧を描くように口元を緩ませ、笑った。

彼女が腕をあげれば、先ほどくだかれたガラスの破片が、スッと浮き上がり、イミテに狙いをさだめる。



「さあ、終わりにしよう。」


月明かりに照らされ、ガラスがギラリと不気味に光った。



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