哀歓善戦

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2年前。キキョウシティ。


「帰ってください!子供達に聞こえたらどうするつもりですか!」


塾の門の前でバッと両手を広げ、クリスはきっぱりと言った。


その言葉の相手は政府の家来達だ。

彼ら…いや、おもに政府の制帽にバッチをつけた大佐と思われる男が、彼女をバカにしたようにあざ笑う。


「君は私に指図するつもりかい?はは、ずいぶんと気の強い子がいたもんだね。」

「いいから帰って!」



キッと睨みつけるが、彼らは微動だにしない。

むしろ1歩、歩みよった。



「気は強いくせにもの分かりが悪いようだ、君は。もう一度言う。ここの塾長であるジョバンニ殿は、身よりのない子供達を集めて養っていることが付近の民衆の話で明らかになった。」

「それが何だって言うんですか?アナタ達政府の人間にとやかく言われる筋合いはありません!関係ないでしょ!」

「残念。大ありだよ。」


彼は見下したような笑みをうかべ、胸の内ポケットから1枚の紙を取り出した。

それをクリスに突きつけるように見せる。



「罰則金…!?」


紙には確かにそう書かれていた。


「本来ならば引き取り手のない子供は施設に預けられる。それぐらいは君も知っているよね?」

「………ええ。」


バカにしたような言い方に、クリスは男を軽く睨みつけながら返事をした。



「そして孤児の里親になる際には契約金として、いくらかを国にはらう仕組みになっているんだ。この国の孤児施設は、そのお金と民の税金で成り立っている。」


……まあ、孤児の施設の環境を見れば、そのお金の大半が政府によって横領されているのは明らかなのだが。


「しかしあろうことかジョバンニ殿はその孤児達を国の許可なく扶養している。これは明らかにこの制度に違反しているんだよ。」

「でもジョバンニ先生はまだ国に保護されていない子供達を養っているんだから、里親の契約金は払わなくていいはずでしょう!?」


クリスの意見はもっともだ。

里親になるための契約金が発生するのは、施設から孤児をひきとる場合のみ。

身よりがなくさまよっていた子供を育てるぶんには問題ないはずなのだが…




「そんなものは関係ないんだよ。たとえ国に保護される前でも、子供達は皆、この国の王のものなんだからな。」

「子供達を物あつかいしないで!誰の者でもない!どの子にも自由に生きる権利があるんだから!」

「おや、おかしなことを言うね、君は。」



その言葉を聞き、男はニヤリと笑った。



「子供は道具だ。そしてこの国に存在する民も、建物も、塵1つでさえ国王のもの。お前達は我が王の手足にすぎないんだよ!はははは!」

「………ッ!」


ギリッとクリスは奥歯を噛み締めて、その侮辱にたえた。

さすがにこれ以上刃向かえば、自分も、そしてこの塾で生活している子供達も罰せられてしまう、と思ったのだろう。


押し黙ったクリスを見て、男は満足げな笑みをうかべた。



「少し猶予をやろう。1週間後の日の入り後にまた来る。それまでにここにかかれてある金額を用意しておけ。」


男はクリスに紙をつきつけた。


「!こんな大金、払えるわけないでしょ!」

「払えないなら子供を渡してもらうまでだ。それとも…」



男はクリスの顎を掴み、無理矢理顔をあげさせる。



「君自身で払ってくれてもいいんだけどな?一生我々の奴隷になるなら、ね。」

「ふ、ふざけないで!」


パシ、とクリスが男の手をはらうと、男はまた不気味な笑みをうかべた。



「もっとも、そんなに気の強い奴隷じゃあ、そこに書かれている金額の半分も足りないだろうけどな!ははは!」

「〜…っ!」

「一週間後、楽しみにしている。」


男は「行くぞ!」と周りの家来達に言うと、さっそうとその場を立ち去った。



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