短編

□悲しい心
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「(恋って、どんなのだったっけ…)」


ポツリ、と心の中でつぶやいた。


もうずいぶんと、恋をしていない気がする。

気になる人もいなければ、好きな人もいなくて。


恋ってさあ、気づけばその人のことばかり考えてて、話したくて、会いたくて、目が合っただけで嬉しくて、楽しくて。


「(たしか、そんな素敵なものだったなあ…)」


…なんて、どこか他人事のように、また心の中でつぶやいた。



恋がしたい。

そう思ってはみたものの、さっき言ったように好きな人がいないから、しようがないんだ。






てくてく、てくてく。

足を進める。




目指すのは、とある男の子がいる場所。

私に、話があるらしい。


話の内容なんて…感づいてる。


だってここ最近、彼は特に隠す様子もなく私に猛アピールしてきたから。


別に嫌じゃなかった。

でも、嬉しくもなかった。



答えなんてでていない。

よく、分からない。



分からないまま、私は約束の場所へと向かう。








「あ…!先輩!」



待ち合わせ場所に行けば、太陽のような明るい笑顔とともに私に向かって手をふる彼がいた。



「おまたせ、ゴールド。待った?」



私も笑顔を彼…ゴールドに返す。


「全っ然!今来たところッスよ!」


また、明るい笑顔。

ゴールドといると穏やかな気持ちになれる。

なんだか安心する。



……この気持ちは恋じゃないけど。

それは、たしかなのに。



「突然呼び出してすいません。」

「ううん、平気。…で、話ってなに?」


私は、ずるい。

なんの話しかなんて分かってるのに。


気づかないフリ。

気づいてないフリ。


もしかしたら、心のどこかでそうじゃなければいいと願っているのかもしれない。



「突然、こんなこと言われても、びっくりすると思うんですけど…」


それは、


「俺、先輩のことが…」



叶わないと、



「すげぇ好きなんです。」


分かってるのに、ね。




ゴールドの目はすごく真剣で、頬は少し赤い。

この子は、本気で私のことを想ってくれてる。


こんないい子、私にはもったいないなあ、と思う反面、どうして私?という疑問もうかんでくる。


私が呆然としているのに気づいて、彼は伏し目がちになって続けた。



「初めて会った時からいいなあ、って思ってて。一緒にいるうちに、どんどんどんどん惹かれていって。」



そうだよね。

それが、恋っていうものだよね。



「守りたいって思ったんスよ。先輩のことを。」


「………。」



彼は、私のことを好いてくれている。

私は彼のことは好きじゃない。




恋してない。

好きな人もいない。

恋人もいない。


恋はしたいと思うけど、別に今すぐ恋人がほしいとは思わない。




でも……。

たまに、…本当にたまに。


1人でいるのがどうしようもなくさびしくなる時があるの。

1人にたえきれなくて、泣いてしまう日があるの。



さびしくて。

さびしくて。




「俺と…付き合って、くれませんか?」





お互い100%の気持ちで付き合えるなんて幻想だ。きれいごとだ。


そのうち好きになれるかもしれないし…いいよ、ね?









寂しがりは嘘つき
(………はい。)
(こくりと、頷いた)
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