哀歓善戦

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ナツメに冷たい視線を向けられたクリスはごくりと息をのむ。

しばらく張りつめた緊迫感が彼らがいる空間を支配していた。


それをやぶったのはゴールドだった。


「何でお前が、ここに…。イミテ先輩はどうしたんだよ!?」


動揺と不安から、思わず大声になる。

ナツメのことは、イミテが足止めしていたはずだ。

では、ナツメがここに来たということは何を意味しているのか。

ゴールドは最悪の事態を予想してしまい、不安にかられる。


「緑の能力者のことか。フフ…、口ほどにもなかった。」

「!(イミテ先輩が…負けた!?)」


…そんなはずない、落ち着け。

ゴールドは必死に、そう自分に言い聞かせて、平静を保とうとする。



「クリス。お前、自分のおかれている状況を忘れたのか?」


そんなゴールドを後目に、ナツメはクリスに冷たい視線を向ける。


「…ち、違うんです…!つい、油断して、それで…!」


口を開いたクリスからでたのは、震えたか細い声。


「今さら言い訳とは見苦しいぞ。戦いもせずに世間話をしていただろう。もうミナキの命はないと思え。」

「ま、まって!違、」

「…。へー。お前、人質とられてんのか。」

「(え…?)」


ゴールドが棍棒を手に立ち上がり、ニヤリと笑みをうかべて言う。

クリスから事情を何も聞いていないフリをして。


「やっぱ汚いことすんなー。というか、だいたいその人質、生きてんのか?」

「な…!生きてるわよ!絶対!」


思わず声をあげたクリスの目の前に、ゴールドは棍棒を構えて言う。


「お前には聞いてねえ。黙ってろ。」

「!」


さっき話しをしていたときとは違う、殺気さえ感じるその話しぶりにクリスはぶるっと震えた。


「…お前に話す義務はない。」


ナツメはいかにもめんどくさそうに答える。


「答えないってことはお前ら、もうそいつのこと殺したんだろ。」

「…。」


黙ったままのナツメに、クリスの顔がこわばる。


「(うそ…ほんとに、ミナキさん、は…)…ナツメ、様…」


呆然としながらつぶやいたクリスにチラリと目をやり、ナツメははあとため息をついて言う。


「生かしておかなければ人質の意味がないだろう。」

「!」


今度はクリスがほっと、安堵のため息をついた。

…まあ、ナツメの言葉が真実かどうか確信はどこにもないのだが。


「どんな理由があるにせよ、仲間を傷つけたことに代わりはねえ。覚悟しやがれ!」

「え…」


ゴールドは勢いよくそう言って、クリスに向けて棍棒を振り下ろした。



…が、目の前からクリスの姿が消える。


「!」


気づけば、元いた場所から数メートル離れたところにクリスの姿があった。

彼女の隣にはナツメが腕を組んで立っていて…。


「お前の仕業かよ。次は逃がさねえ。」


ゴールドはまた、棍棒を構えて言う。



「そんなことで騙せるとでも思っているのか?」

「は?」

「演技だろう、今の攻撃。もし私が助けにはいらなくても棍棒がクリスに当たらないように、お前は標準を少しずらして攻撃していた。」

「はあ?なんで俺が敵にそんなことしなきゃいけねーんだよ。」


ゴールドは意味が分からないと言ったように顔をしかめる。

でも実際は、ナツメの言ったことは図星で内心、ギクリとしていた。

今の彼の一連の行動はすべて演技だ。

少しでもなれ合っていないとナツメに見せて、クリスがバツをうけないようにするための。



「かばわれるほど親しくなったのか、クリス。」

「ち、違います…!」

「(チッ…)」


ゴールドの行動は裏目にでてしまったようだ。



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