哀歓善戦

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手から伝わる体温も。

全てがなつかしかった。



数歩先を歩き、くるり、振り返って優しげな笑みを浮かべたイミテ。


“私も弓矢使いになる!お父さん!教えて教えて!”


レッドの頭の中で、浮かんだ残像とそのセリフが重なった。



「ゴールドが、私に好きって言ったの。それで、少しもめただけ。」



その簡単な説明の中の、
“好き”という二文字がやけに頭にひっかかる。


好き?

ああ…、

言い表しようのなかった、自分の心の奥底に渦巻いていた感情は、それ…なのかもしれない。



好きだ、と。

そう思っていた。



守りたい、と。

自分はいつだって、そう思っていたはずなんだ。




「(あ…)」


きっと、

なくしたはずのジグゾーパズルの最後のピースは、ずっと自分自身で握りしめていた


それが分かった瞬間、
なんてことなくやけにすんなりと答えが見つかった気がした。



「イミテ?」


彼女に向けたものではなく、自然と口から出てしまったものだけど、その言葉は彼女の足を止めていた。



そう、だ

マサラタウンで。


いつも、一緒にいた相手は。

いつも、笑いあっていた相手は。

いつも、側にいたいと心から思った相手は。



その感情を向けていた相手は、

記憶の中の、少女は、

こんなにも、自分の近くにいた、のに



「…イミテ。」



どうして、忘れてしまったんだろう。

どうして、思いだせなかったんだろう。



「レッ、ド…?」


もう一度振り向いたイミテはひどく驚いた顔をしていて。



「忘れてて、ごめん。」


レッドのその言葉に、今にも泣き出しそうな顔をなった。


おもむろに、レッドはイミテの腕をつかんで自分の胸へとすっぽりとおさめる。


「レッ…」


イミテが言いかけて、止まった。

ギュッと、レッドは背中に回されたイミテの手が自分の服をつかんだのを感じる。


肩を小刻みに震わせて、今度こそ泣いているのが分かった。



「ごめん…本当に。」


ニビの牢獄から抜け出したあと。

レッドが自分のことを忘れていると知ったときのイミテの悲しそうな表情と涙を思い出す。


残酷なことをした、と。 

ひどく自身を責め立てる気持ちにかられた。



「(こんなに、身長差あったっけ…)」



抱きしめたまま、レッドは思う。

昔は拳1つ分しか変わらなかった身長も、今はイミテがブーツをはいているとしても、自分の肩に彼女のおでこが届くか届かないか程度。

頭1つ分は差があるだろう。



「よかった…」


そっと身体を離したイミテは、顔を上げて、ぽつりとつぶやく。


無理に自分のことを思い出さなくてもいい、そう言っていたイミテだけれど、やはり大切な仲間に忘れられているというのは、ずっと心苦しかったのだろう。

レッドはそんな予想をしたのだが…


「もう、頭、痛くなることないね。」


泣きそうな顔をして笑った彼女から出たのは、意外にも、自分を心配する言葉で。


「(こんな状況でも俺の心配って…)」



イミテらしくて、笑ってしまった。

同時に、胸がしめつけられるようにギュッと切なくなる。


今腕の中にいるイミテが、すごくすごく愛おしくて。


忘れていた分の想いがあふれ出てくるように、こんなにも、大切だと感じていて。



「(好き、だ。)」



そう心の中でつぶやいたのと同時に、意識がぷつんと途切れた。



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