哀歓善戦

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「イエロー!」


イミテは背からイエローを降ろし、自分の膝を枕にして横たわらせる。

顔が青白く、額に手を当ててみると異常なほどに熱かった。


「ルビー!これは能力をうつしたせいか…!?」

「…可能性は高いと思います。」

「どうすればいいんだよ!」

「それは…能力者に能力をうつした前例がないから何とも…。」

「くそ…!イミテ先輩!なんとかなんないんスか!?グリーン先輩にしたみたいに、薬草でなんかしたりとか!」

「症状をおさえる程度ならできるけど…、イエローの熱がさげていいものなのか分からないと対処のしようがない…!」

「くそ…!じゃあどうすれば…!」


「取り乱すな。 」


グリーンが落ち着いた口調で言った。

きっとこういう時に誰よりも冷静にいられるて、誰よりも客観的に答えを出せるのは彼だ。

グリーン自身もそのことを分かっていて。だから、


「俺達が下手にてをだしても悪化させる可能性の方が高い。医者の診察をうけてからの治療するのが最善だ。」


いつだって明確な道を示す。

もしそれが間違っていても、全部自分が責任をおえるように。

まあここにいる彼らは、例えグリーンが望んだとしてもそんなことしないだろうが。


「医者か…。そうなると、ここから一番近いのは…」

「トキワシティ、だけど、」

「確かイエロー先輩の故郷に近いんスよね!?それなら、医者も面識があるからすんなり診てくれるかもしれないッスね!」

「その逆じゃなければいいけど…」

「え…?」


もっとイエローにトキワの森で生活していたときのことを詳しく聞いておくべきだった、とイミテはほんの少し後悔する。

なるようになる、と無理矢理考えるのを中断すると、イミテはイエローの額に触れた。


「それなら私がイエローを担いでトキワシティまで行く。レッドはグリーンを、ゴールドはサカキをお願い。」

「1人で来た道を戻る気か!?」

「敵がいたら戦えないッスよ!俺も行きます!」

「ゴールドが私と行ったらレッドがグリーンに肩を貸しながらサカキの監視をしなきゃいけなくなる。それで万が一サカキに逃げられるリスクの方が大きい。」

「それはそうッスけど…」


だからといって元の道に敵がいない保証もなく、イミテもこれ以上強くは言えない。


「それは正論だけど、敵がいたらどうする気だ?」


レッドもそれに気づいているようだった。


「それ…は、いったんイエローを降ろして、弓で」

「そのぶん時間がかかる。イエローの容態が悪化するぞ。」


レッドが真剣な面持ちで言う。


「そうだけど…」


イミテは言葉につまる。

実は深くは考えていなくて、自分だけ先にいく、というのはその場の思いつきだった。

イミテ自身、時間がおしく焦っていた。

正直、こうして話し合っている時間さえもったいないと思う。


早くしないとイエローが…。



「こうしている時間のが惜しい。 」


まさに自分の気持ちを代弁した言葉が聞こえ、思わずイミテは「え?」と声をもらした。


「レッドもゴールドも、イミテと行け。」


そんなこと気にもせず、グリーンは至って冷静に皆が驚くような提案をする。


「怪我人が何言ってるんだよ。」

「グリーンがサカキを見張るつもりなら、任せられない。」


レッドとイミテが反対するのは想定内で、「まあ待て」とグリーンは冷静にその場をなだめ、続ける。


「ブルーやシルバーがいる部屋まではここからすぐのところだ。怪我をしているといっても、血は止まっている。身体を動かすのは正直辛いが、こうして口を動かすことはさほど苦にはならなくなった。要するに、この現状と、シルバーにサカキのことを伝えることぐらいは俺にもできる。」


「俺とゴールドがイミテと行って、こっちに敵が来たらどうするつもりだよ。」

「シルバーもクリスも、それにブルーもいるんだ。なんとかなる。それにもしもの時にはこいつらもいるしな。」


グリーンはチラッとルビーとサファイアのほうに目をやった。

ルビーは「僕は、」となにか反論しようとしていたようだが、サファイアが「任せるったい!」とそれを遮った。


「…確かにここでこうやってつべこべやってんのもめんどくせえし、…その案採用っつーことで、頼んだ!」


ゴールドはサカキを拘束している蔓を、サファイアに手渡す。

サファイアは頼られたことが嬉しかったのか、目を輝かせてそれを受け取り、コクンと大きく頷いた。



「…無理はしないでね。」


やはりそれだけでは不安なようで、イミテは顔をしかめていた。


「あ。じゃあグリーン先輩、これ持っててください。」

「?なんだ。」

「俺達が旅してるときに大活躍したブルー先輩作の盗聴機ッスよ!もう使わないからって、ブルー先輩が持ってた盗聴する方ももらったんで、グリーン先輩に盗聴される方を預けます。」

「盗聴される方って…嫌な言い方するなあ。」

「ま、とにかくこれを持ってればグリーン先輩達の方の様子は分かるし、本当にヤバイときは戻ってくればいいんじゃないッスか?イミテ先輩。」


ニッと笑ったゴールドに、イミテはただ「…うん。」と返す。

初めてあった時よりも気を回すのがもっと上手くなったな、と少し微笑ましく思いながら。


「…じゃあ、ゴールド。イエローをもう一回私の背中に、」

「俺が運ぶよ。」


さらっとそう言い、レッドはひょい、とイエローの肩と膝の裏に手を入れて、彼女を抱き上げた。

毒で辛そうだったのに、とゴールドは一瞬レッドの心配をしたが、彼が顔色ひとつ変えていないのを見てこれ以上ややこしくならないように口を挟むのをやめた。

イミテもそのことにはなにも言わず、「行こう。」走り出す。



「…全く。巻き込まれるのは嫌だって言ったのに…。」


遠ざかる4人の後ろ姿を見ながら、ルビーがつぶやいた。

でもその言葉ほど嫌な顔はしていなくて、むしろどこか満足げで。

サファイアも薄々それを分かっていたから、


「あたしは今まで予言を頼りにいろいろしてきたけど、今回は予言が当たらなければいいと思うと。」


自分に言い聞かせるようにそうつぶやいていた。


「…まきこんで悪い。ついでに俺に肩を貸すか、先に行ってブルーかクリスタルを呼んできてくれないか。」

「グリーンさん、でしたっけ?一見大人びているわりには結構無鉄砲なことしますよね。自分じゃ立てないくらい体調が悪いのに、無理しちゃって。」

「ああ。自覚はある。……まあ、お互い様じゃないか?」


少々棘のあるルビーの言葉にグリーンは表情ひとつ変えず、しれっと言った。


そうお互いさまだ。

なぜならルビーもさっき能力の移動をしたせいで、少しだけ足元がおぼつかなくなっていたのだから。


隠していたのにばれていたのかと、ルビーは気恥ずかしくなる。

普段なら能力の移動だけではこんなに体力を消耗しないのだが、今回は能力者から能力者への能力の移動というやったことのないものだったため、サファイアになるべく負担がかからないよう、出来る限りの力をこめていたのだ。きっとそのせいだ。



「?」


そのことに気づいておらず首をかしげているサファイアから、「蔓、僕が代わりにもつよ。」とルビーは蔓を受け取った。



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