哀歓善戦

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マサラタウン。

汚れなき場所として知られているこの町は、自然豊かで平和な田舎町。


その町の中心から少し離れた草原に、2人の少年の姿があった。




「はー、疲れたー!ちょっと休憩。」


そう言ってゴロンと芝生の上に横たわる黒髪の少年…、彼の名前はレッド。


明るく好奇心おうせいな少年で、どんなものにでも立ち向かう正義感も持ち合わせている。

ゆえに、悪いことは悪い、そうズバッと指摘でき、皆からの信頼もあつい。



「それぐらいで休むな。」


ため息をつきながら、刀の素振りを続ける茶髪の少年は―…グリーン。

容姿が整っているうえに頭もよく、常に冷静さを忘れず的確な判断ができる…、クールで落ち着いた性格だ。




レッドとグリーン。

ある意味性格が正反対な2人だが、彼らは一緒にいることが多い。


特に約束をしているわけではないが、2人とも時間が空くとこの草原に来て剣の修行をする。


お互いにライバル視して張り合っていたためか、彼らの剣術はみるみるうちに上達した。

今では大人にも通用するほどの腕前だ。



「グリーンも一緒に休もうぜ。さっきからずっと動きっぱなしだろ。」

「お前の休憩は長すぎて付き合ってられん。」

「相変わらず真面目だなー。グリーンは。楽しくやろうぜ、楽しく。」

「……。」


昔はよく意見がぶつかりあい喧嘩をすることもあったが、今では彼らは、ライバルかつ最高の親友だ。




ここまでの説明からは、2人はごく普通の少年達に思えるだろう。

…でもそれはあくまで、“ここまで”の話にすぎない。



実は、レッドはある問題をかかえていた。




「なあ…グリーン。」


レッドが急に真剣な口調になって、グリーンに呼びかける。


「…なんだ?」


そんな彼の様子を察し、グリーンは素振りをやめて、今度はしっかりとレッドのほうに目を向けた。




「なんだか…、何かが…足りないような気がするんだ。」


戸惑い気味にそう言うレッドには、普段の明るさなど全く感じられない。

ただただ、寂しそうに呟く。



「…マサラタウンが嫌いなわけじゃない…むしろいい町だ。グリーンとこうして毎日、一緒に剣の修行もして……なにも、不満に思うことなんてないハズなのに、さ…。」

「……。」

「こうしてると…なにか、大事なものがもう1つあったんじゃないのかって、いつも思うんだ。」


「!」

「これってやっぱり、記憶喪失となにか関係があるのか?」



そう―…記憶喪失。

それは数年前にレッドを襲った。


ただ、自分の名前も出身地も親友のグリーンのことも町の皆のことも、全て覚えている。

忘れていることは、たった1つだけ。


…1人の少女のこと。


もちろんレッドは何について忘れているのかさえ、記憶がいない。




「グリーン、頼む。教えてくれ。」

「………。」


グリーンは思わず黙りこむ。

レッドが忘れている記憶、そしてレッドが記憶喪失になった原因を、グリーン、そしてマサラタウンの皆は知っている。


しかし、レッドが忘れている過去は思い出すにはあまりに辛いものだ。

今では町の皆が、そのことについてはそろって触れないようにしている。



「…どうしても、思い出したいのか?」


グリーンの問いかけに、レッドは黙って頷いた。


その意志は固い。



「………。」


グリーンは空をあおぎ、考える。

しばらく沈黙が続き、やがて彼は口を開いた。



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