哀歓善戦

□00
2ページ/8ページ


「お前が感じる違和感は…、記憶喪失と関係している。」

「…やっぱり…。」


レッドはポツリとつぶやいた。

何となく、感づいてはいたのだ。


心にぽっかりと穴があいたような気がして、でも、思い出せずにいたから。



「……もう1人。」

「え…?」

「…昔は、俺とお前と…もう1人ここにいたんだ。それが当たり前で…俺達の日常だった。」


「もう、1人…。っ!」



レッドが急に頭をおさえた。

記憶を思い出そうとすると現れる症状。

頭に鋭い痛みがはしる。



幸い頭痛はすぐにおさまったようで、レッドは深いため息をついた。



「(やはりまだ無理か。)……レッド、お前がそいつのことを忘れているのは、そいつの存在がお前の中で大きかったからだ。」

「……。」

「お前は自分自身を壊さないように、そいつの存在自体を記憶から消した。だからこうして無理に思いだすより、自然と思いだすのを待つほうが無難だろう。」

「…そう、だな。」


レッドは力なく笑った。

大切なものを忘れているという不安ともどかしさが、彼に重くのしかかっている。



「…時間はたっぷりある。焦る必要はない。」

「…ああ。」



グリーンという親友がいなければ、レッドはそれらに押しつぶされて、自分を見失っていただろう。



辛気くさくなってしまったので、グリーンは話題をかえることにした。


「そういえば、おじいちゃんに山に薬草をとりに行くように頼まれた。レッド、お前は先に帰っててくれ。」



ちなみにおじいちゃんというのは、グリーンの祖父で、この町の長老でもある。

町の皆をまとめられるほどのリーダー性のある人で、皆からはオーキド博士と呼ばれ親しまれていた。



「薬草なら俺がつんでくるよ。…少し1人にもなりたいし。」

「そうか。じゃあ俺は先に戻るぞ。」

「おう!またな!」


元気よく走っていくレッド。

そんな彼の後ろ姿を見て、グリーンはほっとした様子で口元を緩めた。



…次いで、さっき言った自分自身の言葉を思い出す。



“…昔は、俺とお前と…もう1人ここにいたんだ”

“それが当たり前で…俺達の日常だった”



そう、もう1人…この場所にいた。

弓矢を得意とする、明るくて、ふんわりと優しく笑う少女が。


数年たった今でも、彼女の風になびく髪や、周りを和ませる雰囲気を、鮮明に覚えている。



「……くそ!」


やりきれない気持ちになって、グリーンはぐっと拳をにぎった。

レッドが忘れている記憶、それはグリーンにとってもトラウマになっているのだ。



「(…俺もレッドのように、アイツのことを忘れられていたら…、楽だったかもしれないな…。)」


グリーンは静かに思い出していた。

自分が守りきれなかった少女のことを。




その少女の名は……、




「(…イミテ。)」



ほんのりとオレンジ色に色づいた空を見上げながら、彼は心の中で静かに呟いた。



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ