哀歓善戦

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一陣の風が吹き、少女の髪をなびかせた。

綺麗な深緑のその髪は、青い空によく映える。




少女の名は、イミテ。



彼女は開かれた窓から、ただぼんやりと空を見上げていた。

その表情はどことなく、儚げで…切ない。




そんな時、ガチャリとドアが開いた。



「イミテ。交代の時間だ。」


現れたのはタケシと言う1人の男。

イミテより少し年上の彼は、彼女の指揮官でもある。



「…分かってる。」


イミテは窓を閉めながら、いつものようにそっけなく答えた。

そんな彼女にタケシは険しい顔をする。



「お前には王を守るという、誇らしい仕事が与えられているんだぞ?もう少し喜べ。」


王を守るというのは、城の警備をするということ。


警備は軍隊が行う。


イミテはそんな軍隊の一員だった。

最年少で、しかも女でありながら一番強い。



理由はただ1つ―…、能力者だから。





「…私は無理矢理ここにつれてこられて、勝手に手下にされた。アナタみたいに、王を守りたいなんてこれっぽっちも思えない。」


軍隊に入ることは、自分から望んだことではない。

彼女の能力が王の目にとまり、強制的にここに連れてこられただけなのだ。



「知ったような事、言わないで。」


イミテはとげとげしくそう言い放ち、タケシを冷たい目で一瞥した。



「…さっさと、持ち場にいけ。」

「……。」


イミテは黙ったまま愛用の弓矢を持って立ち上がる。

その弓矢は彼女の能力を発揮するための媒介。


能力者は自分に適した媒介を持つことで、その能力を発揮することができるのだ。




「イミテ。」


ドアに向けて足を進めたイミテを、タケシが呼び止めた。



「お前は強い。この町の人は、皆お前を頼りにしている。」

「……。」

「妙なこと、考えるなよ?」



イミテはその言葉を聞き、一層冷ややかな目でタケシを見た。



「頼りにしてるなんて…馬鹿げてる。私は、この町の人にお礼を言われたことは一度もない。」

「……。」

「皆、私を利用しているだけ。…政府の道具として、ね。」



所詮、政府の言いなり。

自分は駒の1つでしかない。



「おい、」


バタン!

何か言いかけたタケシの言葉をさえぎるように、ドアが荒々しく閉まった。



…イミテの心はすっかり閉ざされていた。



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