哀歓善戦

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「なんで?」

「え…」


「なんで…何も言ってくれないの?」


その表情は、まるで今にも泣きそうで。




「…ねえ、覚えて…ないの?私のこと…。」


イミテはギュッと、気づかれないように拳を握る。


思いきって聞いた。

一番、聞きたくなかったこと。


一番、そうであってほしくないと願っていたこと。




「………。」


レッドは思わずうつむく。

自分は、彼女のことを知っているハズだ。

そう、知っている…。


必ず、どこかに答えがあるはずなのに。

どうして―……。


どうして、たどり着けないんだろう。




「…覚えて、ないんだね。」


小さくつぶやかれたイミテの言葉に、レッドは顔をあげた。


「え…?」



イミテの目からツウ…と、一筋の涙がこぼれる。

声をあげるわけでもなく、苦痛の表情を浮かべるわけでもなくて。

ただ無表情のまま、本当に自然に…泣いていた。



「イミテさん…、」



唖然とする2人を見て初めて、自分が泣いていることに気がついたイミテ。
服の袖でグッと涙をふいて、顔をそむけながら言った。



「ごめん…、ちょっと混乱しちゃってさ…1人にさせて…。」

「1人じゃ危ないですよ!僕も一緒に…」

「平気。」


イエローにさらっとそう返すと、イミテは少し早足で歩き出す。

すぐに森の奥に消えて、見えなくなってしまった。




次いで、レッドがまるで力がぬけたかのようにその場に座り込む。



「レッドさん…!イミテさんと何があったんですか…!?」

「分からない…」

「なんなんですか!イミテさんが、あんな表情(かお)するなんて…、絶対、よっぽどのことがあったはずです!ちゃんと思い出してください!!」


イエローが思わず声をはりあげてレッドに言う。



「仕方ないだろ!思い出せないんだから!!」


レッドも思わず声をあげて、その場に気まずい雰囲気が流れた。



「悪い…」

「いえ、僕こそ…」



レッドはふうーっと気持ちを落ち着かせるように息をはく。



「……覚えてるはずなのに、思い出せないんだ。」


「覚えてるはずなのに?」

「ああ…。絶対に、知ってるはずなのに…。」





自分を見つめるあの綺麗な澄んだ目も、風になびく細い髪。

たしかに、なつかしさを感じた。




そうだ…、あの頃は、
彼女はキラキラとした表情で、『レッド』と笑顔で自分を呼んでいて。

1つ1つが、優しくて温かいもので。


でも、それはいったい、いつの話し?どこの話し?



やっぱり、分からない。

分からない、けど―…。



イミテのことを考えるとうかんでくるのは、故郷―マサラタウンの情景で―……。




「……!」


痛みが襲い、レッドは顔をゆがめた。


「大丈夫ですか!?どこか怪我とか…、」

「いや…、怪我じゃない。平気だ。」

「でも…、」



言葉を濁したイエローに、レッドは苦笑してつぶやくように言った。



「よく思い出せないけど…、少なくとも、あんな顔させたくなかったのは…たしかだ。」




(きっと、)



(一番、大切だったのに)

(一番、守りたかったものなのに)







「…だったら、追いかけるべきです。」


イエローが力強い口調で言った。


「追いかけても、なんて声かければいいか…、」

「でもきっと…今、イミテさんを1人にさせちゃいけない気がするんです!」


「イエロー…。」


「行ってください、レッドさん。行かなきゃ、ダメです。」



「ね?」とイエローは優しく笑った。


それを見てレッドは「…ああ。」と短くつぶやいて立ち上がると、イミテが消えた方向に走っていった。



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