ぎんたま

浮世の刻に
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朝と夜の区別もつかないこの宇宙空間で、我々春雨の団員は生活をしている。
艦内時間は全て地球時間に合わせられている。
その時間で午前2時前。
シャワールームからでて、部屋に戻ると阿伏兎が我が物顔で座っていた。
テーブルの上には中身が半分のワインボトルが1つ。

「よう。邪魔してるぜ」
「来てたの」

愚問だ。
私はこの男がくる事を知っている。
だから鍵をかけずに部屋から出た。

春雨は2週に1度、普段は方々で活動をしている各師団長が元老の元へ集まり、話し合う機会を設けている。
そのとき遇ったのが阿伏兎だ。

「俺らの他にも夜兎がいるとか聞いてたが、出会えるとはねェ」
「あなた、師団長じゃないのにどうしてここにいるの?」
「その師団長さまの尻拭いだ」
「へえ、大変ですこと」
「お固い話はここらにして、軽く飲みにでも行かないか?」

折角同朋さんに遇えたんだ、酒の一つでも奢りましょう?
誘われて、艦内のバーで他愛無い話をして。
最初はそれだけ。
それがいつの間にか、召集日にあいつが私の部屋に来て、肌を重ねることが常となっている。
いつからそうなったかは、よく覚えていない。

ただのお遊びだ。
酒を飲み、肌を重ねて他愛無い会話をしておしまい。
終われば来る時同様いつのまにか、ふらりと消えてまた2週間後に現れる。
それのくりかえし。

「部屋出るなら鍵かけろ。不用心だろうが」
「こんな夜中にくる奴なんて、あんた以外いないわよ」
「それもそうか」

隣に座って、奴が持っていたグラスをひったくって、中身を飲み干すとキスをされた。
その後はもう、なし崩し。

遊びのはずなのに、会える日が待ち遠しいのは何故。
耳元を掠める声、触れる温もり、満ち足りた時間。
興味本位で突っ込んだ片足が、いつの間にか抜けなくなって、両足どころか腰まで埋もれて戻りようにも戻れない。
密やかで甘美なこの短い時間が、とても愛おしい。

自分の気持ちには気付いているけれど、言いたくない。
何より悔しい。
そう、阿伏兎にとってはただの遊びなのだ。
言って疎遠になってしまうのならば、言わずにこのまま過ぎれば良い。
むこうが切りたくなったら、それでいい。
重い女にはなりたくない。

「今日は随分長いのね」
「お前が随分いい声聞かせてくれるからつい、な」
「…まだ帰らないのか聞いてるんだけど」
「何だ、さっさと帰れってか?」

つれねぇ事いうなよ、なんて言いながら私の髪で遊んでいる。
まだ帰る気はないらしい。

「ああ、ひとつクイズでもしようか」
「何?」

こいつのクイズとやらは、2択のどちらも同じ結果で、クイズになっていない。

「今うちの部隊人手が足りなくてな。
お前が自主的に移転願いを出すのと、俺がお前を引き抜く。さて、どっちがいい?」

一体何を言っているんだ、この男は。
この選択肢じゃ、私は阿伏兎と同じ部隊に所属されてしまう。
そうなったらますます深い所まで沈んでしまう。

愛してしまう。

だめだ、これ以上目を合わせてはいけない。


「もう、2週に1度じゃ足りねえんだ」



ああ、こいつも私も、





浮世の刻に

溺れたのはどちら?






企画:モルヒネさまへ提出








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