STORY

□Tip-top days
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金曜日。虚を倒して教室に戻った頃には、日はかなり傾いてて誰も居なかった。
黒板の端、火曜日の日付と日直が既に書かれていることに軽く舌打ち。

日直―石田・井上

石田は最近小川と話してんのをよく見かける。
多分このままいくと、俺が小川と日直になる。

代わってやりてぇな・・・

そしたら俺と井上は最高の3日間になる筈だ。



【Tip-top days】



『今年の誕生日、祝ってやれなかったな』
『えっ?・・あ、それは仕方ないよ。まだ付き合って無かったし』

井上と付き合い出して暫くした頃の帰り道。
誕生日をしっかり祝ってなかった事に気付いて、何が欲しいか聞いてみた。
全然欲しいものなんて無いからと言われて釈然としなくて。
柄じゃなかったけど、俺はひつこく聞いたんだ。

『なら、次にある土曜日から月曜日の三日間の連休に・・・』

日曜日と、月曜日の二日間を私に下さい、なんて言われるから。
何で金曜日からの連休じゃ駄目なのか、どうして二日間なのかと聞いてみる。

『月曜日が休みなんて特別な気がするし・・・』

それに夏梨ちゃんと遊子ちゃんから三日間全部黒崎くん取っちゃたら、可哀相だもんね。
なんて返って来たから。

確かに妹達は可愛いけど、もう少し欲張りになってくれてもいいのにななんて思った。

早く来い連休・・・




「お世話になりました・・明日まで黒崎くんお借りします」

「お兄ちゃん、何で今夜は織姫ちゃんち行くの?」

「ぬゎ〜にぃぃぃ、一護!まさか不純異性交・・・ゴフッ」

「ヤメろ、井上の前で・・・」


今日も連れて来ればいいじゃんと騒ぐ遊子に詫びを入れ、万年エロ親父を殴り倒して家を出た。

なかなか理想的な連休は来なくて、あれから三ヶ月も経ってしまった。
約束を覚えてるのかだけが不安で、電話を掛けようとしたところに。
井上は突然家にやって来た。

気にしなくてもいいのに土産まで持参して。


昨日の一日目は、散々遊子と二人で料理と格闘。
安全パイだとカレーを頼んだら、台所から聞こえる悲鳴。
完成まで三時間も掛かってた。

でも、誰かと二人で料理をするなんてなかなか無い遊子は、終始ニコニコしてて。
それを見てた親父が、井上に感謝だと言っては抱き着こうとするから、
俺は何時もより何倍も強い蹴りを入れる。
大丈夫ですかと心配して近付いて行く井上を、夏梨がいつもの事だからと言って止めるんだ。

彼女が自分の家族と仲良く過ごす。
そんな最高の光景が毎日続けばいいと思った。





『誕生日プレゼントに遊園地行って、夜のパレード見て帰るから』

夜遅く帰って来たら、夏梨にも迷惑だろと事実半分、言い訳半分。

実はあの後、俺に取っては散々で。
俺が泊めたのに、井上の部屋は勿論妹達と同室で。
仕方無いからとリビングで話してるだけで聞き耳立てられて。
会話に少し詰まらせたら夏梨にテレビゲームの相手に取られてで・・・
全く話せなかった。
俺を妹達から取ったら可哀相だと言ってくれたのに、井上を取られたのは俺の方。

今日まで井上を独占されたら困るからな・・・

でも結局は井上が一人暮らしで寂しい思いをしてるのを知ってるから。
ウチのヤツ等はこういう日に関してだけは、何も言わなくなった。

制服や火曜日の教科書、お泊りセットがごっそり入ったバックが何故か軽く感じる。
この荷物さえも放り投げたら、死神化してなくても空を飛べるかもしれない。

俺は井上の手を取って走り出した。










「楽しかったか?」

「もちろんデス!」


お互い風呂上がりの、ほんわかした香りの中で、髪を拭きながら俺は尋ねた。
時計の針は既に一時を回ってて。
楽しかった一日は時間が経つのがやたらと早かった。

遊園地に行こうが、何処に行こうが、やっぱり井上は井上で。

『かわい〜!』

と連呼してはマスコットの着ぐるみについて行く。
竜貴達に贈ると言っては、土産もの屋で一時間は悩んでた。

俺はこう・・・その荷物を気取って受け取り、意外な重さにフラフラついて歩くだけ・・・

何ともカッコつかない一日だったけど、最初から井上の好きなようにさせるつもりの二日間。
悪い気はしない。

しかもこんな時間に一緒に居られる幸せは、また暫く来ないから・・・

今日、これで寝てしまうのが少し惜しかった。



「私、寝れないかもしれない」

「疲れてないのか?」

「だってこんな時間に黒崎くんがいるのは夢みたいだし・・・」

時間が勿体ないから、と頭に手をやりながら照れて話す井上に、
シンパシーを感じて抱きしめた。
本当は俺だって寝たくないけど、最高の二日間が終わるなら・・・
今こうして幸せを感じているまま眠りに就きたい。

「明日学校だぞ。それにお前は日直だし、早く行かなきゃならないだろ?」

寝る事一つ取っても、『井上の為』みたいにしか言えない俺。
でもいつかこんな最高の二日間を最高の毎日に変える事を誓って。
俺は井上を連れて横になる。


「幸せ過ぎて今度は起きれないかも」

「そんときは一緒に遅刻して怒られような」

「そしたら二日間じゃなくて本当に三日間一緒に居られるね」

・・・ったくコイツは・・・

何で俺の弱点を全て知ってるかのように、何でも言葉にしてくれるんだ?
寝るのが勿体ないとか、日直や遅刻だったら三日間一緒だとか。
この短い間に、何度も同じ事を思って、考えて。
こんなに相性のいい相手なら、一生手離すことなんてできないだろ。

『あのね、黒崎くん・・・』
『ん?』
『遊びに来て貰うのも嬉しいけどね、帰っちゃった後はいつも寂し・・・』

俺は井上に布団を掛け直して。
自分も腕を枕にして仰向けになる。

まだ寝てるお前にしか言えねえけど、
この最高の日が毎日が続くように・・・
井上の待つ家にいつも帰れるように・・・

絶対ぇ将来・・・

「・・・家族になろうな・・・」



End

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