STORY

□君と一緒に
1ページ/1ページ

「おい、校門にすっごい美人がいるってさ」

実習が終わり後片づけをしていた矢先、同期の一人が息込んで言ったその言葉に。
まさか、と思いながらも、思い当たる節があって。

「黒崎、何処行くんだよ!」
「悪ぃ、後やっといて!」

片付けそこそこに教室を飛び出した。







【君と一緒に】







辿り着いた校門で無防備に立っていたのは、やっぱり、というか、何というか。
淡い栗色の長い髪に、六花のヘアピンは相変わらずで。
何が楽しいんだか、首を傾げたり、くすくすと小さく笑ったり。
百面相をしながら佇む彼女に思いを馳せながら。


少し息咳きって、その愛しい名を呼んだ。


「井上!」
「あ、黒崎くん!」

俺を見た途端、すこぶる綺麗な笑顔を向けてくれて。
内心酷く喜びながら、井上の元へと駆け寄った。

「ったく。来てるんならケータイで教えてくれりゃいいのに」
「そうしようかなとは思ったんだけど、ここが黒崎くんの大学かぁ、って思ったら」

何だか嬉しくなって、とはにかむ笑顔を向けてくれる井上に。
気恥ずかしさと呆れを少々含めながら、そっか、と頷いた。




『黒崎くんの住んでいる街が見たい』

空座町よりも1時間ほど離れた街の大学に通う俺に、そう井上が言い出したのが確か1ヶ月前。
いつも大型連休になると俺の方が家族のいるアチラへ帰るから、確かに井上がコチラへ来る事はない。
だから突然の井上の申し出に驚きながらも、快く承諾した。

あまり目新しいものもなにも無い街だけれど。
雰囲気は空座町に似ていて、俺は結構好きだから。
井上にも是非見て貰いたい、とは確かに思ってたんだけど………。





「黒崎の彼女?スッゲー可愛いじゃん!」
「うっせー。寄んな、ボケ」
「お前には勿体ないよな」
「大きなお世話だ!」
「知ってる?君からのメール、いつも鼻の下のばして見てるんだぜ、一護のヤツ」
「……伸ばしてねーっつーの」

いつの間にやら、俺と井上に周りには人だかり(それも男限定)が出来ていた。
次から次へと野次馬根性で出没する同期の連中に。
恨みがましい目を向けて、しまった、と心の中でどっと後悔をした。

安易に大学で待ち合わせなんかにするんじゃなかった、と。


郷里に残してきた彼女が遊びに来た、なんてネタ、こいつらには恰好の餌でしかなくて。
呼ばれもしないのに、好奇心一杯の目で次々に湧いて出てくる。
何だよ、お前らは雑草か、って位。

それに、俺が言うのも何だけど、井上は見目が綺麗なヤツだから。
同期の友人だけでなく、通りすがりの男まで振り返っていく始末で。


そうなると当然。


「だっっっっっ───────!寄んな、触んな、近付くな!!」

眉間の皺をそりゃもう深くして、井上に寄る男共をしっしっと追い払いながら。
この状況を打破しようと、徐に井上の手を取って走り出した。

「行くぞ、井上」
「う、うん」

そんな走り出す俺達の後ろでは、未だギャーギャーと騒ぐウザい男共。

「きったねーぞ、黒崎!」
「ちくしょーお前だけ良い思いしやがって!」
「戻ってちゃんと紹介しろー!」

「く、黒崎くん、いいの?大丈夫?」

浴びせられる俺に対しての雑言に、おろおろする井上を見て。
ホント優しい奴だなぁ、と嬉しく思いながら。
後方の連中に向かって大きな声で怒鳴り返した。

「うるせー!てめぇらなんぞに、大事な井上を触らせてたまるか!」

柄にもなくスルリと出た言葉に可笑しく思いながら、じゃーな、と軽く手を挙げて走る。
走りながらふと隣の井上を見ると、それはそれは顔を真っ赤にしていて。
そして何の合図もないのに、はた、と二人視線が重なった。
真っ赤な顔で照れたように笑う井上を見て、段々と俺まで恥ずかしくなってきて。
二人一緒に顔を赤らめながら、笑い合った。


「黒崎くん、大学楽しそうだね」

走りながら、優しい笑顔でそう言う井上に、まぁな、返事を返しながら苦笑を零す。
そうして。

「よく来たな、井上」

井上に軽く笑いかけたら、一瞬きょとんとした後、満面な笑顔を向けてくれて。


それから。

黒崎くんの住んでる街に来られて良かった、と。
そんな井上の優しい気持ちに触れて、改めて井上の事を『愛しい』と思った。



愛しい、と思う気持ちは出会ってからずっと。
大事だ、と思う気持ちはこれからもずっと。


君に出逢えた事を、心から幸せだと感じつつ。


繋いだ手をぎゅっと握り返しながら。

君に見せたいと思った街を駆け抜けた。





end


−−−−−−−−−−

通いつめて通いつめてやっと踏めたキリ番
素敵一織に悶絶気味なゆあは、頂けた時呼吸困難でした!!


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]