STORY

□twinkle
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清風朗月


清らかに吹く一陣の風も

優しく夜道を照らす月も



山紫水明


紫に染まる夜明けの山も

はらはらと瞬く清らかな小川も




――アイツの前では敵わない




寧ろその統てを照らす太陽さえ


敵わないかもしれないんだ





【twinkle】





黒板に書かれた幾つもの英文。

医学部なのだから、早急に勉強しなければならないのはドイツ語だよなと思いつつ。
一つ残らず書き写す自分を、かなりのヘタレと自嘲し乍、シャーペンを走らせた。


『こんな言葉…絶対に言えねえ』


ノートに書かれた歯の浮く文章を見て一人、欧米人はよく言えるなと一方で尊敬して、また一方で苦笑い。
女の子なら誰でも喜ぶわね、なんて長い金糸の髪を風に揺らす先生が言うから。
男だらけの医学部の教室、口説き文句を教えてくれる先生は楽しいけれど、ここは日本だから。


『言えたとしても変人だな…』


鼻で笑ってしまう辺り、甘い言葉を言えるようになる未来は、また一歩遠退いたと。
あの、黒装束を着ていた頃から癖になった自己分析を完璧にし乍、手持無沙汰にペン回し。

だけどそのペンもすぐに…


止まることとなった。






「黒崎くん、ドコで待ってればいいかな?」



普段からあまり『どうしたい』とか『ああして欲しい』とか言わないくせに。
お互い違う場所に居乍、二人で出掛ける時だけは、待ち合わせをしたがる…
多分、初めて学校以外を二人で歩いた日曜日を思い出しているんだと思う。


根拠はナイ。


ただ、そんな時のコイツの顔は、一層優しいものとなるから、ホント…何となくだ。

だけどあの日曜日は、文化祭の買い出し担当って、とても健全なお出掛けで。
でも、もの凄く緊張してて、二人で顔を赤くし乍、ペットボトルの水をやたらと飲んでいただけだった。


「定時には終わると思うけど…はっきり何時かも言えねえし、迎えに来るよ…」

「ううん…やっぱり今日みたいな日は、待ち合わせがいいの」


最近は車があるから、何処にいようと迎えに来ることが多かった。

でも今夜は、啓吾達へのお祝いの席。

酒を飲むつもりだし、駅前までは徒歩だから。
こんな日だけは『待ち合わせ』を望む俺の愛しい人を知っていて、迎えに来ると言ってしまうのは、ただの男の性だろう。
自分でも手持ち無沙汰から逃れる為に、水を飲み干してた頃からは、随分と成長したなとは思うけれど。

だって、待っていたいって言い乍顔を赤くさせられたら、それこそつき合う時の告白をされてるみたいで、何度でも見たく…


聞きたくなる。


こういう顔、竜貴に言わせると俺の前でしか出さないらしい。
それに気付かないのは、自分にだけは毎回向けられているからだと、昔は怒られた事もあるけれど。



今、確かに輝いた…





昔の事を思い出して、一瞬呆けていた俺に、どこで待ってればいいかと、改めて聞いてくる愛しい人に、その答えは出さずに別の用件を伝言。


「夕方には病院を出れるし、お前はそれ迄ゆっくり寝てろ」


あまり成立してない会話にきょとんとするのを見て、こんなにも無垢な彼女を汚しているのは自分なんだと苦笑をし乍も、今夜は寝かせないかもって思う俺は、相当コイツに狂ってる。


「そうだね、夜は元気イッパイじゃないとね!たくさん寝て夜に備えておきます!」


俺の言った本当の意味なんて、きっと解っていない。
何で笑うの〜と、頬を丸く膨らませる仕種は、いくつになっても、可愛いかった。


「待ち合わせの場所は、後で休憩の時にでもメールする」

「分かった!待ってるね!……ふふっ」

「ん?何だ?まだ何かあんのか?…」


まだ何か言いた気な雰囲気。

俺は行ってきますと、ドアノブに既に掛かっていた手を外し、踵まで返して向き直る。
はにかみ乍も、最近やっと板についてきたネクタイ姿に手を伸ばして来たから、俺も怪訝な顔を浮かべ乍も、少し顎を上げて手が止まるのを待った。


「たつきちゃん達が結婚するのは、勿論嬉しいんだけどね、その前にベテラン夫婦…あたしは奥さんのプロになれた気分です」



ナルホドな。

結婚するのがアイツ等なら、俺としても特に啓吾には先輩風吹かせたくなる気がする。
えへへと頭を掻いて照れ笑いする、あの頃と変わらない姿を見れば、別に、コイツがそんな風に考えるとは思わないけれど。

でも、鏡を見たら左右対照の完璧なネクタイ…

ベテランかどうかは判らないけれど、ただ、ネクタイもイイ加減に結ってしまう俺の奥さんとしては。


上出来だと思う。


これからもいい奥さんになります、と抱いた我が子の手を上げさせて、キラキラ輝く瞳で笑う。

そうコイツが輝く時…



いつも何か、俺に提案する時。

宣言する時。



待ち合わせを提案。
いい奥さんになるという宣言。



思えば、子供を産む時もそうだった。

妊娠中、いい子を産むねとか。
俺に似てる子を産むね、とか。

産んだ後も、いい母親になりますとか。
仲良しな家庭を作ろうねとか。



でも、こんな些細な提案や宣言の顔も。



竜貴に言わせたら俺への愛故…



あまり表立っては言えないけれど、深い感謝は持ち合わせているから。


だから。


「一星は遊子に預かって貰うように言ってあるから、今夜は二人でゆっくりしよう」


今日は俺から、労いの提案。


元気に頷く彼女は、俺の一生の支え。

一生の恋人。





俺には、

学生時代から忘れられない英文がある。



多分、一生忘れられない英文。



だって、その英文に沿う人物がココに…いてくれるから。




Her eyes were twinkling with…

Love…



End

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『twinkle』の寧さまへ5万ヒットおめでとう、なお話。
6万も既に過ぎてて、勝手に押し付けたのを快く受け取って頂きました!

誠におめでとうございます!
そして、これからも仲良くして下さい!


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