STORY

□恋の十字路‐クロスロード‐
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「行くか、井上!」


今日って一日が終わったら、他のヤツらの楽しかった話とか引っ切り無しに聞かされて。

きっとコイツは淋しい想いをしちまうから。

表面だけはムリして笑顔作ってさ、周りのヤツらには気を遣わせないようにさせて…

喚きもしないで隠すから。



だから ほっとけない…



ハゲるぞ…バカ――





【恋の十字路-クロスロード-】





『ノォォ!一護また時計気にしてるぅ〜!まだ時間はたっぷりなの!京都の女の子をナンパすんの!!』
『そうやってあからさまに騒いでると、女の子は逆に逃げちゃいますよ、浅野サン』


蚊取り線香の残り香とか、季節外れの蝉の声なんて、何処に行っても変わらない。
でも、何となく違和感を覚えるのは、いつもと違う風景を眺めているからだろうか。

隣に居るヤツらは変わらないのに、周りの落ち着きには馴染んでいかない。
寧ろ俺達と風景の間にはっきり引かれる境界線は、ケイゴが騒ぐ度に不機嫌の色を濃くしていった。


『ワリィ…俺、先ホテル帰るわ』



修学旅行なんて何のイミがある?

学問の最終的且つ総復習ってのは学校側のお名目。
想い出づくりなんて言うのは学生的思考の実質。

その為に苦労する学生が居るってコトも気付かないこの非日常。
ましてや[苦労するなら来なくてもいい]と言わんばかりの出欠確認プリント。

不参加にしたら欠席扱い。


まぁ、仕方ないと思う。

俺は…人間以外の人の存在が感じられる――見えるヒト。
科学や数学。論理的思考を教える学校で、そんなモノを見てしまう人が少数派なのは当たり前。
ただ、そういうヤツも居るって頭の隅に留めて置いて貰ってさ、行き先を決めて頂きたかった。


京都なんて…


大体、修学旅行たって、沖縄とか北海道スキー旅行が多い中で、何で京都かな?
まぁ沖縄行っても大戦で浮かばれなかった霊は沢山いるっつーし、スキー行っても事故死したヤツなんかも居るからさ。

ドコに行ったって変わらない。

でもアイツはさ、そんな俺に気を遣って傷にいいトコとか、厄払いの守りを売ってるトコとか探したみたいで…
顔を真っ赤にし乍、3日目の自由行動の俺の予定を聞いてきたんだ。


『うん…みんなね、行きたいトがバラバラでね、纏まらなくて…結局たつきちゃん達ともほぼ別行動ってコトになったの』
『でね、改めて行きたいトコ考えたらね、黒崎くんにとって良さそうなトコがイッッパイ見つかって…それでどうかなって…』


ソコまで井上に言われて喜ばないオトコが居るか?
もし気まずいならチャド達も誘ってイイなんて言われて、そしたら今度はオマエが気まずいんじゃねえのって思う気持ちは言わねえで。


『いや…いいよ。二人で行こうぜ』


そうして約束したのが一ヶ月も前なのに。
何で俺、ケイゴや水色なんかと一緒に居たんだろ?
アイツ等がキライとか言うわけじゃ勿論ねえけど、約束を違える莫迦にはなりたくねえっていつも思ってたのにさ…

修学旅行に使う金くらい自分で稼ぐって頑張ってた姿を俺が一番知ってた。
おばさんに負担を掛けたくないって言葉に感動した親父が、俺んチで受付させたのに……

その所為で風邪を引かせた。

寝てればすぐ治った筈だけど、遠足の前日とかって妙に目が冴えちまって寝れねえだろ?
あんな状況になったらしくて、だから俺に気に病むなって言ってさ観光に追いやったけど。

でも、違うだろ?

アイツが一番楽しみにしてたんだ。
俺を案内するんだって張り切って、出発前夜はパンフレットと睨めっこ。
メールしたら『貴船神社の行き方を調べてました』って返って来たんだから。


ごめんな、井上…


俺はコンビニで栄養剤とスポーツ飲料、それからカップの雑炊をカゴに投げ入れて、会計と同時に走った。



**********



今頃はみんなドコ歩いてるのかな?

あたしの予定では、午前中はみちるちゃん達と舞妓さんに変身させてもらって、そこから二条城の前で黒崎くんと待ち合わせ。
みちるちゃんは石田君にカワイイ姿見せられたかな?

今はまだ1時だから、着付けが終わってやっと二人で歩きだしたトコだよね?
あたしも着たかったな…黒崎くんに見て貰いたかった…

あたしが黒崎くんを誘ったら、黒崎くんに出された条件……

『あたしのスキなトコを最低2回は回るコト』

行きたいトコを選ぼうとしたら、何時の間にか『黒崎くんに良さそう』って思うトコばっかり選んでしまう。

清水寺の音羽の滝は『穢れを払う』の。
貴船神社は水の神様で、おいしいお水が湧き出てるみたいで…

その水は『不老長寿』?

よく分からないけど健康にいいって言われてて、身体にいっぱい傷を作ってしまう黒崎くんには飲んで欲しくて…

ドコに行きたいかなんて解らない。
行きたいトコは黒崎くんの行きたいトコ。


黒崎くんに良さそうなトコ…


でも、みちるちゃんが着付けしてもらうって聞いて、違う姿を見て貰うのもいいのかもって思って、便乗させて貰う予定だった。
女の子だもん、匂袋とか持っててもいいんじゃないかなって思って、二年坂のお香屋さんにも行きたかったの。

だって黒崎くん、あまり香水のにおいはスキじゃないって言ってたし、仄かに香るくらいのお香ならイイかなって。

これがあたしの行きたいトコ。

ほら、最低2回スキなトコって言われても総て黒崎くんへ辿る道。


あたしってバカだね…


黒崎くんには風邪ひいたってコト黙っていたかったのにバレちゃって…
仕舞いには『ウチの診療所で働かせたから』なんて言わせてしまって…

黒崎くんには折角だから楽しんで欲しくて、自由行動に追い出したけどやっぱり淋しいの…

時折仲居さん達が通る足音しか聞こえない、そんな中に一人で居ることが…



堪らなく寂しい…



**********



何で昨日の夜は憚られたのに、井上の部屋に行くコトが今はこんなにスンナリなんだろう?
他の生徒が居ないから?勿論それはあると思う。
だけど、今はアイツの霊圧が震えてるから、きっと寂しいんだって思う。


「井上!?」
「く、くろさきくん・・・」
「大丈夫か?井上・・・」

「寂しかったろ?昼になると気温も上がるからさ、体調って良くなってくるモンなんだよ」


案の定、案の定井上は羨ましそうに窓の外を眺めてた。
俺の顔を見て口をあんぐりあける姿を見て、『俺の霊圧にも気づかなかったのか?』って冗談を言ってみたけど。
『何で分かるの?』って小さく呟かれた言葉に、『オマエのコトだから』って言うのは喉の奥に留めて置いて、買って来た雑炊を目の前に差し出した。



**********



あたしを呼ぶその声に、驚いて低めの窓に掛けてた手を外した。
何でこんなにゆっくりとしか振り返れないのか、あまり力の入らない体を叱咤して声の方向へ顔をやる。


『体調が良くなるとさ、さっきは考えられもしなかったコトが頭に巡って来るんだよ』


寂しかったろと、一人でお留守番してたあたしにニカッと悪戯っぽい笑顔を向けて。
思わずあたしは『何で分かるの?』って、呟いてしまった。

確かに熱は下がってる。
ココで寝てなきゃやっぱりぶり返したりしちゃうんだろうけど、やっぱり外の空気も吸ってみたいの。

帰って来てくれたのが黒崎くんで嬉しい…

たつきちゃんでもきっと嬉しかったけど、こんなに涙が出そうになるのは、このヒトしかいないの。


「メシ食ってないだろ?ちょっとだけでいいから食べたら先生から貰った薬……飲めよ」


目の前に出されたカップのキノコ雑炊。
ほんのり利いた塩味が、なんだかとても甘かった。

みんなに内緒で食べたこのキノコ雑炊が、きっとこの旅行の最高の思い出になる。

そう思っていた矢先、黒崎くんが信じられない提案をしてくれたの。
外の空気も吸ってみたい。

そんなあたしの我儘を、普段はぶっきらぼうな黒崎くんが叶えてくれる…

こんな彼の優しさには、世界中の誰の優しさも敵わない…



**********



「行くか、井上!」


今日って一日が終わったら、他のヤツらの楽しかった話とか引っ切り無しに聞かされて。

きっとコイツは淋しい想いをしちまうから。

表面だけはムリして笑顔作ってさ、周りのヤツらには気を遣わせないようにさせて…

喚きもしないで隠すから。



だから ほっとけない…



ハゲるぞ…バカ――


井上は優しいって思う。
いや、誰が聞いたってコイツが優しいっていうコトに異論があるヤツなんて居ない。

いつも他人を思って、一人で頑張ろうってしてしちまうんだ。

そんなコイツが好きだけど、俺は何の為に居るんだってよく思う。
進路とか、これから悩まなきゃいけないコトが沢山出てきても、それでも一緒に歩いて行かなきゃコクったイミが無くなる。

ツライときこそ、一緒に居てやらなきゃ…


「取り敢えずは、貴船だけな?こっからだと結構あるし、身体にイイ水なら、今のオマエが飲まなきゃ」


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