小説部屋

□遡る夜 歩き出す朝
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ココヤシ村―

魚人達による長い支配が終わりを告げ、人々は八年振りに笑顔を取り戻し、大いに歌い、騒いだ。

歓喜の宴は夜になっても終わる事を知らず、賑やかな声が村中に響いていた。

それでも、夜半過ぎる頃になると、幸せな酔いに身を任せた人々が、あちらこちらで眠りにつきだした。




そんな村から外れた場所



ノジコは一人、みかん畑に立っていた。




「眠れないのか、ノジコ?」
「ゲンさん。」

声をかけてきたのはゲンゾウ。
ココヤシ村の駐在で、ノジコの父親代わりと言ってもいい人物だ。

「皆と飲んでいたんじゃないの?」
「まぁな。しかし皆騒ぎ疲れたのか、今では大部分が寝ておるよ。…幸せそうな顔でな。」
「…そう。」
「お前は寝ないのか?」
「まだね。…なんか、寝て起きたら夢だったんじゃないかって…そう思うと眠くならないんだよね。」
「………。」

ゲンゾウは

『そんなことはあるまい。』

と、否定したかったが、口には出せなかった。

それほどまでに、今日の出来事は衝撃的だったからだ。

この日が来ることを、どれだけ夢に見たかったことか…

しかし、夢を見ることすら叶わない程、魚人の力は絶望的だった。




八年間の苦しみから解き放たれた今、言葉では言い表せない感情が二人を包んでいた。





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