小説部屋
□道の途中
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「くそ、また迷ったか…。」
薄暗い森の中、一人の男がそう呟いた。
かなり歩き回ったらしく、その顔には疲れと苛立ちが浮かんでいる。
もはや来た道すらわからない。
そもそもここは道なのかも疑わしい。
辺りはどんどん暗くなり、野宿を覚悟したその時―
「お困りのようですな?」」
不意に声をかけられた。
ハッとして振り返ると、そこには一人の男が立っていた。
年の頃はもう老人と言って構わないだろう。
真っ白になった頭、そして同じく真っ白な長い髭をたくわえている。
しかし、背筋はシャンとしており、細く見えるが必要な筋肉はしっかりと盛り上がっていて、かつてかなり鍛えた事を物語っている。
そして、とても優しい眼をしていた。
全てを越えて来た者だけが持つ優しい瞳。
それは、見た目はまるで違うのに、かつて男が師事した先生を思い出させた。
「道に迷われたようですな。もう陽も落ちた。よろしければ拙宅にて休まれてはいかがかな?なに、すぐそこですわ。」
そう問掛けられた男はしばし老人を見つめながら考えこんでいたが、
「あぁ…。悪いが世話になる。」
と、答えた。
どうやらこの老人に害はないと踏んだらしい。
「ではこちらです。どうぞ。」
老人に導かれ家へと向かう。
害はないと踏んだが、安心もしていなかった。
何故なら…
―コイツ…俺に気配を感じさせなかった…。
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