小説部屋

□遡る夜 歩き出す朝
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話したいことがたくさんあるような…
何もないような…


沈黙が二人の間に佇んでいた。



先に口を開いたのはゲンゾウだった。

「ノジコ。」
「何?ゲンさん。」
「よく…頑張ったな。」

唐突な台詞にノジコの目が驚きで丸くなった。

「何言ってるのよ、ゲンさん。私は何もしてないじゃない。」

ゲンゾウは黙って首を横に振った。

「頑張ったな、ノジコ。」

噛み締めるように、優しい瞳でノジコを真っ直ぐみつめると、もう一度繰り返した。

「だから、違うってば。魚人を倒したのはアイツラだし、村の人達だってずっと頑張ってたし、何より一番頑張ったのはナミじゃない。私なんて何も…」

必死になって否定するノジコの頭を、ゲンゾウは優しく撫でた。
まるで子どもにそうするかのように優しく。
そして穏やかにノジコに語りかけた。

「確かにナミは頑張ったな。村人達もよく耐えてくれた。…だがな、ノジコ。悲しみや苦しみは、他人と比べるものじゃない。お前の受けた悲しみや苦しみは、お前のものだ。」
「ゲン…さん。」
「妹のナミが泣かないと決めたあの夜から、お前も泣かずに頑張ってたな。お前たち姉妹は、幼くして大人にならざるをえなかった。泣きたい夜もあっただろうに…。」

そしてゲンゾウは、そっとノジコの肩を抱き、言葉を続けた。

「もういいんだ。八年間お前は頑張った。もう、我慢しなくていいんだ。」
「ゲンさん…!!」


いつもクールなノジコの顔が、一気に八年前の子どもの頃に戻って行った。

様々な事が蘇る。




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