小説部屋

□遡る夜 歩き出す朝
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「なんで…?」
「まぁ、ノジコはまだ子どもだし、仕方ないよ。」

一人で世話した蜜柑。

ベルメールさんのように、たくさんの実をつけることが出来なかった。

ベルメールさんの大事な蜜柑。
来年こそは、ちゃんとたくさん実がなるように。


蜜柑の木は子どもの私には大きすぎて、何度も脚立から転げ落ちた。

嵐の夜は、蜜柑畑につきっきりになった。


負けるもんか。

負けるもんか。



「すまないな、ノジコ。今年は蜜柑が豊作で、高い値がつかないんだ。」
「わかってる。今までもこういう年があったし。」


ギリギリの生活。
むしり取られる奉具。


笑うんだ。

生き抜くんだ。


それがベルメールさんの教えなのだから―




八年間耐えに耐えてきた。

子どもの自分を封印し、常に冷静でいられるよう、自分の気持ちを押し殺して生きて来た。

戦いの終わった夜、ゲンゾウの言葉で封印は解かれ、ノジコは八年分の涙を流し続けた…。




どのくらいの時が経っただろうか。


「ありがと、ゲンさん。」

そう言ってノジコは顔をあげた。

涙でぐしゃぐしゃになってはいたが、その顔にはすっきりとした、清々しい笑顔が広がっていた。





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