夢物


□月と地球
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あなたが好き。

大好き。


だけど、
これは許されない恋。

してはいけない、恋。

どんなに思い、馳せても、誰にも言えない。



あなたを愛していると。



本当は大声で言いたい。
手を繋いで歩きたい。
抱き締めて欲しい。
ずっと一緒にいたい。
側に、いて欲しい。


ただ単純な事なのに。



ただあなたが、好き。







「あ、満月…」

お風呂上がり
最近衝動買いをしたお気に入りの椅子をバルコニーに出し、
缶チューハイに口をつけ
顔を上げた瞬間、満月が白く輝いてるのに気付いた。


いやに、今日は明るいと思ったら…


風が優しく濡れた髪を、通り抜ける。



気持ちいいなぁ…



お風呂入ってさっぱりしたし
お酒は美味しいし
仕事は…まぁ、なんとかうまくいってるし



あとは…



部屋に戻り、携帯を開く。

「着信は…なし、か。」



地区予選近い、って言ってたし
今日の授業中だって、珍しく疲れて寝てたみたいだしね…



携帯を閉じ、窓に寄り添い空を見上げた。



声を聞くことすら、ままならないなんて





遠いな…




雲1つない
満天の星と、輝く満月。


夜は、嫌味な程
静かに綺麗で…物悲しい雰囲気が漂う。


どうしてだろうね


悲しくもないのに、こんな夜は泣きたい気分になる。



だけど、
隣には誰もいない。


涙ごと、あたしを受け止めてくれる
暖かい人も
大きな手も
優しい笑顔も
柔らかな唇も…




全てが、手に届く範囲にあるのに
その全てが、幻のような…

夜空に浮かぶ、掴めないあの月の様な


貴方は、
美しく眩しい人。

遠い人…




あ〜ぁ
あたしいつからこんなに、弱くなったんだろう…



缶チューハイに再び口を付けようとしたとき
自分が泣いているのに気が付いた。


風に吹かれ、冷たい1本の筋が頬に刻まれる。




−−ピンポーン…



誰、だろ?
時刻はもう、11時を差していた。


玄関に立ち
覗き穴から、外を見た。


「?!」


扉の前に立つ人物に驚き
急いで鍵を開けた。



「どうしたの!?
こんな時間に…」


そこには、息を荒くした大樹が立っていた。

顔も赤い…夜のランニング、かな?


「夜の走り込み…
月が綺麗だったから。」

「そっ、か…」



走った、ついでか…


「いや、違うな…」

「?」

「先生の顔、見たくなった…
走ることの方が、言い訳だ。」



心拍数が上がったのは、走ってきたからじゃない。

顔が赤いのは、走ったからじゃない。





君に会えたから。





同じ月を見ながら、同じ事を考えていたのかもしれないね。


思わずあたしはかかとをあげ、大樹の首元へ
腕を巻きつけ、顔をうずめた。


「ありがと。
あたしも、会いたかった…」

「…先生、髪濡れてる…」

「…んー。」

「…酒…飲んでる?」

「ふふ…ちょっと、ね。」


力強く、大樹に腰を引き寄せられ
あたし達はしばらく、お互いの体温を確かめ合った。


どこか懐かしく、
甘く、落ち着いた空間。



ここはあたしの
【居場所】



月下の眩しい光を浴びて
今宵、狂わすのは
恋人達の野心のみ、か。




――enD――


→頂き物の
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