「要するにさ」
「何」
「嫉妬しないかなぁってな実験」
「勝手に言ってろ」

 何やら女に貰ったらしい綺麗な包みを丁寧に開けていくもそれは途中で遮られた。そう5日間孤島で1人暮らし伝説を作り上げようとするも人の欲、通りかかった船に助けを求め伝説にも何もならず皮肉にもその欲が語り継がれてしまった男、誰だったか。生憎俺の頭は一般常識とレンジャー用語とちょっとした数式しか詰め込まれていないので俺に関係無い男の名前など片隅にも残ってはいないのだ。嗚呼男よ、悪く思うな。さてこれは誰が悪いのか悪くないのか片方に両方?してその反転世界?
途中まで剥がされたごてごてしたテープを今度は一気に汚く剥がす目の前の男はB型かO型と見た。しかし俺と同じAB型かもしれない否、案外こう見えてA型だったりするのだろうかと考えるもやはり俺には関係の無いことで考えることすら止めてしまう。何時からこんなナマケモノのような脳ミソに育ったいや元からかもう、どうでもいい。ぺたり、完璧に思考停止した俺の頬に剥がされたテープが引っ付いた。

「…何するんだ」
「あらムラサキ君たらほっぺにそんなん貼っつけて、サッカーの応援にでも行くの?」
「馬鹿らしい」
「あー、取んないでよ」
「俺の顔で遊ぶな」
「んな怒るなって…うっあひで、貼り返さないでよ!」
「日頃の恨み」
「ははっ、何それ」

 目の前で無邪気に笑う男は今まで何人の人間を突き落として来たのだろうかこんな男でも人を惹き付ける力がある、それが分かっているから尚更感じるんだこの思いを。少なくとも俺の頭の中にはずっと昔から昔から、想っている人間がいる。それが俺の中の1つの結晶であり所謂一途な思いであるからにして、これを頭に残っている数式で表せば何ともシンプルな話だ。χу。俺がχであいつがу、このまま混じって1つの答えになる、それで良い。

「あっ、」
「馬鹿か」

 かさかさと動く紙袋、その音がどうしても腹立たしいとかそんな感情、寧ろアンシェアな欲望の壁を蹴りあげ穴を開け風を通すその風が動かす音に似ていたのか、気に食わない。
紙袋を取り上げ逆さに向ければごとと言う音と共に腕時計が落ちた。デジタル式と言うのだろうそれは針が回るわけでもなく表示板に一定の早さで数が現れたり消えたりを繰り返す。
腕時計壊れたらどうするのと眉を顰める男にどうせ使わないだろと返せば何で分かったのー?と馬鹿っぽい伸びた声が聞こえる、やはりこの男は頭が悪いきっとそう、頭が悪いんだ。

「これどーすんの」
「捨てれば良いだろ」

 ラブレターとか入ってるんじゃ無いかと紙袋を逆さにして覗き込めば目の前の男はその紙袋を引ったくり俺の頭に被せてきた。何するんだ、と紙袋を取ろうとしてもぐいぐいと紙袋越しに頭を押さえ付けて来るから取りたくても取りようが無い。この紙一枚を隔てた間にて俺とセイジ。目が見えない視界が無い、目の前は真っ暗。
もういい、と半ば諦め力を脱けば頭へ掛かっていた重心からの解放。軽く頭に残った気持ち悪さを無くすために音を立てて首を倒していれば、首を立て直した瞬間に頬の位置を挟むように両手で捕まれる。勿論紙袋ごしだ。何て滑稽な風景なのだろうか、頭に自分が置かれている姿を思い描いて誰にも見えない苦笑を小さく溢す。

 何秒何分何時間たったのだろう、実際はきっと少しの時間しか経っていないのだろうが俺にはこの沈黙が長く思えた。頬を両手で挟まれた時の紙袋の感触にも慣れてしまったし、何だろうこの空間にも慣れてしまった。
漸く頬から手を離されたと思ったら次は体全体に衝撃、手が背中に回っている感覚ああ抱き締められている。どうしたんだよ、と問うも何の返事もないから俺を今こうして抱き締めているのは本当にセイジなのかなんて、劣った思考が働くのだけれどそれが間違っているということは自分自身物凄く分かっている。はずだ、少なくとも俺は。
けれど目の前にいるはずのこの男がどう言った表情をしているのか分からない、だから目の位置に穴を空けたいこの邪魔な被り物を退けてしまいたい何故この男は、こんなにも、
分からないこの感覚が自分でも、気持ち悪いんだ。一瞥。ふと意識を無くした感覚で繋がった否、繋げられた唇、何故この男は。この一枚を隔てた感覚で繋がった、間接と呼ぶにも相応しくない唇と唇を繋げるためには、まず紙袋を破り穴を開けなければいけないのだろう。



(080730.セムラ/紙袋に穴を開ける)


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