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「栄口 くん」
「あ、三橋、一緒に行こっか」
「貴方が三橋君?」

朝練を終えて、第二グラウンドから戻る時、武蔵野の制服のスカートをヒラリと靡かせて三橋の前に女の人が立った。
真っ黒な長い黒髪に少し垂れた目元、口元にはほくろがあって妙に色っぽくてドキッとしてしまった。
三橋も同じなのか頬を赤くして、でも自分が呼ばれた事に驚いたのか青くなったりもして挙動不審に頷いている。

「そう、貴方が三橋君なのね」

ゆっくりとその目を細めて笑んだそれにドクリとまた心臓が高鳴る。
その人は乱れぬ動きでスカートを手で押さえると、そのままアスファルトに正座する。
三橋も慌てた様子でその人の正面に同じように正座をするからオレも慌てて同じようにしてしまった。

「隆也君と仲良くしてくれてありがとう」

ふかぶか下げられた頭に思考が固まる。
隆也って、阿部?
この人阿部の一体何??

「これからもよろし」
「オイ!」

振り返ってみれば肩で息をして、凄い形相で立っている阿部と唖然としている他の野球部一同。

「何やってんだお前は!」
「何って挨拶よ、隆也君がお世話になってますって」

口元に嬉しそうに弧を描いて笑えばとってもやっぱり色っぽくて、他のヤツラもうっと身体を震わせる。
あ、水谷と花井赤くなってる。
田島は何だか目がキラキラしてる気がする。

「馬鹿か!そんなところに座ってんな!お前らもだ!」
「三橋君、隆也君ってすぐ怒るけどどうぞよろしくお願いします」
「いいから立てって言ってんだろ!」

ぐいと腕を引っ張ると、カバンから綺麗なタオルを取り出してその人の膝を拭く阿部に、オレを含めて皆で呆然。

「なー阿部!そのキレーなオネーサン誰!?」
「ちょ、田島!?」

誰もが気になったであろうその質問、けれど誰もが聞けなかったその質問をさらりと言ってしまう田島はやはり強者だ。

「別に誰だっ」
「初めまして、隆也君のお姉さんです」

目を細めて笑んだそれに皆揃って頬を高潮させるも、近付いたら殺すと言わんばかりな般若の形相を浮かべる阿部の視線に一同でゾクリを背筋を凍らせたのだった。




(阿部姉は武蔵野在住、多分3年生。阿部の事になるとあれだけど普段はしっかり者。)


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