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まさかいるなんて思わなかった。
と、泉は開いたドアの向こう側の人間を見た瞬間に思った。
「って…下くらい履けよ!」
「何を、私とて下着くらい履いているぞ」
「ズボンの話してんだよバカヤロウ!」
いきり巻いていると傍できょとんとしていた田島と三橋が誰誰と駆け寄る。
泉は二人の目に触れる前に扉を思い切りしめた。
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「元はハマダが言い出して無理矢理来てやったのに、本人がいないってどういう事だよ…」
「だからすまぬと言ったであろう?良郎に無理に買い物を頼んだ私が悪いのだ、謝るからそんなに何度も溜息を吐くな」
閉め出しを食らった二人の耳に泉の怒号が聞こえて数分後、ようやく玄関の扉が開いた。
そうして浜田不在の事を伝えられた一同はそのまま今日予定していた、近所の少年野球チームの応援に行く事にしたのだ。
「なーイズミ、この人ハマダの彼女?」
「ちっげーよ、似て非なる者ってヤツ」
「に、似て 雛?」
首を傾げる二人に「意味としては見かけは似ているが全然違うものだよ」と女が答える。
クイズか?と言いながら考えこむ二人を余所に女が鞄から本を取り出した。
泉は嫌そうな表情を浮かべて、三橋はその姿に足を止める。
「あ、」
「どうした三橋?」
「も、もしかして…」
「おや、ようやく思い出してくれたかい?三橋廉くん」
その言葉に三橋は口をパクパクさせて、涙を溢れさせる。
その落ちる雫を指で掬えば柔らかく笑んだ。
「この涙は何味かな?」
「あ、あま い の…」
「そうか、では沢山お泣き」
頭を撫でて笑うその姿を見ながら、田島は泉にどういう意味と聞く。
「良い涙は甘いんだと。そしたら蟻が巣に持ち帰るだろうって、そしたら蟻達も幸せだろってさ」
「じゃーしょっぱいのはダメなんだ」
「いや、そういう悔し涙とかは土や植物が好むんだって。そんでその涙をくれた相手を励まそうと強く伸びるからそれを思って自分も…ってあ、あいつが言ってたんだ!」
言葉の意味を話していた泉の表情は優しげなものだったのだが、突然慌てた。
田島はそんな泉に気付いてか、ふーんとだけ答えると顔を戻して女をじっと見つめる。
「浜田のねーちゃんってやつか」
「よく分かったな」
「笑ったとことかちょっと似てる。で、泉も狙ってんの?」
にしし、と歯を見せて笑った田島の言葉に泉が目を見開く。
「おぉーい!泉!三橋!田島!」
「ハ ハマちゃん だ!」
「や、やっと追いついたー…」
ゼェゼェと息切れし、ぐったりとした浜田を見ながら変な空気をまとった泉と田島が近付いて行く。
「ハマダー、姉ちゃんいたんだな!」
「おー大学の助教授やってんだぜー!」
「本当、なのにどうしてお前のバカなんだって疑問になるよな」
「そういうな泉、私はただの変わり者なだけだよ」
ふふ、笑うその横に田島がぐいと身体を割り込ませる。
押された浜田が泉にぶつかって、結果泉が一番端へと追いやられた。
「ちょー頭いいじゃん!今度勉強教えてー!」
「合う時間があったらな、まぁ何故か東京の大学に移動させられてこっちの方には来れる機会が増えたがな」
「じゃー浜田と一緒に住むのかよ?」
「泉!もっと言ってやって!」
通勤が遠いと東京周辺に住む気でいるんだと浜田がグイと姉の目の前に泉を押しやる。
足を止めればパチリ、田島と重なる泉の瞳。
「本もいいけど、退屈させねーぜ。何たって浜田が応援団長で俺ら野球部」
「三橋がエースでオレよっばーん!そんで泉は切り込み隊長なんだぜ!」
「みっ 見に 見にきっ…!」
「なー!だからさぁ姉ちゃん!」
一緒に住んで(やって)ってば!!
綺麗にハモったその声に、本に挟んでいた指を抜いて女は笑った。
(浜田姉・感性が独特の自他共に認める変わり者。本の虫。ちょっと年寄り臭い。実は浜田とは血が繋がってないかも設定にしようかしまいか悩み中だったりもする。)
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