駄文庫(短編)

□敵がいなけりゃ
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何の隔たりもなく、数年ぶりに見る友の顔は、想像していたよりもずっと大人びていて。
鏡で見る自分は実際の年齢よりわずかに幼いように感じていたので、少し、悔しくなった。

「キラ、大人っぽくなったな」

そう言う彼の表情が、心なしかどこか笑みを含んでいるように見えるのは、
自分も「そんなことはない」と自覚しているからなのだろうか。

宇宙(ソラ)から地球、そして再び宇宙へ。
変わらず自分の手にはレバーが握られていて、けれど自分の名前についていたあの妙な称号はまた、当然のように消えていた。
やたら目に付いたエンブレムも、ただの飾りにしか見えなくなった。


ザフトと地球連合、両者の動向を見定めつつ、エターナル・アークエンジェルの陣営は、近く起こるであろう戦闘に備え、様々な人、モノ、情報が行き交っていた。


なんの事はない、自分もその中の一人なのだ。
そして今、隣にいる友も。


エターナルの展望デッキから見える宇宙の姿は、以前に見たものとは全く違う色で。
こんなに綺麗なものだったのかと、思わずため息が漏れた。


「…金魚すくいの網でもとれそう」

ポツリ、キラが呟いた。

「とれそうって…星がか?」


数十センチはある宇宙との境界に手を触れると、対称に映る自分の姿の向こうに、幾千もの星の瞬きが散らばった。
デッキは自分たちの身長と比べても倍以上の高さはあり、眺めていれば、宇宙に投げ出されたような感覚にとらわれる。
とは言っても、星なんて実際は何光年も離れた彼方にあるもので、ここに届いている光さえも、何年も前に放たれた過去の光なのだ。

そんな時間軸なんて、自分には予想もつかない。


「昔さ、ほら、月に居た頃。
 近所でお祭りがあったじゃない?ちょっと変わったさ」


何歳の頃だっただろうか。
キラの両親の、昔からの友人だという人が中心となって、ちょっと変わった祭が開かれたことがあった。
季節でいえば夏であったか。暑さも多少薄らぎ、夏休みも中頃といった時期だった気がする。
小さな風船に水を入れてヨーヨーのように遊ぶもの、仮面みたいなもの、様々なジャンクフードを看板にかかげ、所狭しと色とりどりのスタンドが立ち並び、どこかの民俗音楽が密やかに流れていた。
母は仕事で来れないと、自分とキラ、キラの両親とで出かけてゆき、何をしたのかは覚えていないが、とても楽しかったという記憶だけが、断片となって浮かんだ。


「あの時、初めて金魚すくいやってさ。アスランてば、僕と一緒で初めてだったくせに、
 ひょいひょいすくっちゃうんだもん」


そうだ、浅い、とても水槽とは呼べないプラスチック製のハコの中に、無数の小さな魚たちが泳いでいた。
お店で売っているどの熱帯魚とも違うその魚たちは、赤やオレンジ、中には黒いのも混じっており、子供にしてみれば大きく見えるそのハコも、今にして思えば大した大きさはなく、水も深く張っていなかったので、あれは商品としての価値は低かった魚だったのかもしれない、と、今更ながら少し寂しく感じた。
それでも子供だった自分には、ほのかな明かりに反射して光る魚の群れが、昔話で聞いた「竜宮城」のように見えた。


「僕、お祭り行く前にやったゲームでアスランに連敗してたから、
 絶対勝ってやるんだって、すごい躍起になってて…」



『今から君と僕は敵同士だ!どっちがたくさんすくえるか競争だよ!!』
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