駄文庫(短編)

□敵がいなけりゃ
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「きっと、見下したり、羨んだりする事に溺れちゃうから、相手を滅ぼしたくなっちゃうんだね。
 自分で認めたくないんだけど、心のどこかで認めちゃってるから、これ以上変わりたくなくて。
 僕は、アスランが羨ましいと思うことは多いけど、アスランがいなくなったらとても困る。
もっと君に近付きたいって思うから、だから前に進める」


――ああ、こんなところが…。


キラには、敵わない。
自分より幾分か幼く見えるこの少年に、いつも自分はしてやられるのだ。
守ってやりたい、そう思いながら、いつも守られているのは自分だと痛感する。
きっと本人は、その事に気付いていないだろうけど。



「俺…忘れてたんだ、きっと、そのことを」


モルゲンレーテ潜入からずっと、何故キラは自分の言う事に耳を貸さないのか、
何故ナチュラルの味方をするのか。

何故、自分の言う事をきかないのか。

自分の理想とのギャップに苛立ち、疑問ばかりが目の前を塞いだ。
驕慢になっていた。


「キラが俺の言うことをきかないの事にすごく腹が立って、それで俺たちが戦うことになったんだって。
 全部おまえに押し付けた。
これって、おまえに対する甘えだよな。 自分の方が優位にあるなんて、勝手に思って」


それはもはや「敵」ですらない。
ただの「専制者」と「隷属」だ。

ふと顔をあげると、キラが僅かに嬉しそうな笑みを浮かべている。


「…なんだよ」
「や、アスランも僕なんかに甘えてるとこなんてあるんだなーと思って」


“ちょっと嬉しくなっちゃった”

人が少し自己嫌悪に陥って、真剣に話しているというのに、相変わらずこの幼馴染は…。
まあこの悪戯っぽい笑みに助けられて、切り抜けて来たことは多々あるのだけれど。
なんだか悔しいから、それを口にするのはやめた。


「おまえなんか、俺に甘えてばっかりだったじゃないか」
「それは昔! 今は今なんだよ!」


こんなところはやっぱり子供なんだから。

俺も、おまえも。
君も、僕も。







* * *






俺はあの時、君に手を差し伸べた。
僕はあの時、君の手をとらなかった。


それはきっと、間違いではなかった。
ただ僕らは、その意味を知らなかったけれど。


僕らは互いに、前へ進むための <<畏敬の念>> を捧げよう。
君の見つめる先は、いつでも僕の確固たる理想なんだ。




君はいつでも、<<僕の>> <<俺の>>  “最善の敵” でいて。
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