駄文庫(短編)

□RUN
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「ヤマト、聞いたぜ?異動だってな」
「ああ、うん」

ジブラルタル戦線から凱旋帰還、久しぶりに上がった宇宙(ソラ)で言い渡されたのは、名目上では昇進という異動命令だった。
さて、これから忙しくなりそうだと宿舎に戻る途中、アカデミー時代の同期に声を掛けられた。

「よりにもよってあの“クルーゼ隊”だとはな。おまえの腕を見込んでなのか、生贄なのか」
「? 何、生贄って」
「あ、おまえ帰ってきたばっかだからこっちの情報はまだ入ってないのか。いや、内聞になってんのかな」

アカデミーを卒業後、トップエリートの証である赤を纏い地上での重要地点・ジブラルタル基地を拠点にユーラシア・アフリカ間の最前線を任された。
今回の自分の働きで一時的には周辺に睨みが効く土台を作り上げた。これからが大事だという時に出された異動命令。
宇宙は元々ザフト側に有利な状態ではあったがここ1年で宇宙に上がる連合艦隊は湧く一方。それを食い止める為にも地上は何としてでも足場を堅く組まなければならないのだ。
自分としてはなんとも腑に落ちない中途半端な状態での戦線離脱とも思ったが、赴任先がエリート揃い・多士済々と名高いクルーゼ隊だと聞いて大人しく受けたのだが。

「クルーゼ隊って、この間のツィオルコフスキー戦線でも制圧成功したんでしょ?何か問題でもあったの?」
「問題っつーか…、おまえも耳にしたことくらいあるだろ?クルーゼ隊にいる“赤服の死神”」
「赤服の、死神…?」

そういえば、同部隊の人間がやたらと新着ニュースを見てはその単語を口にしていたような気がする。
ただし自分はまだ戦場に出て間もない未熟者だったし、総合ニュースから流れてくる本国の状況だけが気になって合間の噂話なんてものは左から右へ流れていた。
死神といえば日の下に生きる者の首を刈り取り、身に纏う漆黒のマントで全てを覆い隠し闇の世界に引き摺り落とすというイメージがあるが、それが“赤服”。

「クルーゼ隊にそんなにすごい赤服がいるんだ。連戦連勝だもんね、“鬼神の如き強さ”ってやつ?」
「そうじゃねえよ。確かに連合にとっても死神だろうけど、あいつの場合はそれだけじゃない。
 今回のおまえの異動、補充要員としては同じ赤服なんだしおかしくはないけど、上も何を思って充てたんだかな。
 おまえのことだから大丈夫だとは思うけど、死神に食われんなよ」
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