駄文庫(短編)

□恋のサマーセッション
2ページ/9ページ


残暑といえるこの時期、日も暮れかけたがまとわりつくような暑さだけは益々汗をかいた体を絡め取るようで、裏庭の大きな木にふらつく彼を誘導して座らせる。
開校当初から植わっているというこの木はこの辺りでは有名なほどの大きさで、それに比例して青々とたくさんの光を受けて茂っており、さすがというべきか、木の下に落ち着くとそこだけはどこかひやりと温度が下がり、彼を座らせて正解だったとアスランは安心した。
彼はというと、まだ少し息があがっているのかバッグからペットボトルを取り出すとこくりと一口運び、足を投げ出して太い幹に体を預ける。

「悪かったな、イザークが煩くてさ。巻き込んでしまった」

自分と生徒会長であるイザークの中があまり良くない事は、校内では結構有名であった。
それに共通の友人であるニコルも生徒会役員である為、アスランとイザークの犬猿の仲の具合は友人の間でも話のネタとして常時持ち上がる。
おそらく目の前の少年・キラはそのことに気付いて、気を利かせて自分の腕を引っ張ったのだろう。

「助かった」とお礼を言い隣に腰を下ろすアスランの顔をぼーっと見ていたキラだったが、目が合うとふいっとその視線を逸らした。
何事かと首を傾げたが、成る程、そういえば二人きりで話をするのは初めてだったかもしれない。
いつも間にはニコルや同じ役員のディアッカ、イザークが混じるともはやアスランとイザークの小競り合いに発展して、そこからアスランとキラの接点はぷつりと切れる。
イザークが何か癇癪を起こすとそれを唯一鎮火させることが出来るのはキラだけだが、キラはおとなしい性格のようで、アスランとイザークの言い合いにはいつも遠くから見ているだけだ。
それを無理やりディアッカが力技で引き離すか、ニコルが必殺・悪魔の忠告で黙らせるかどちらか。
知り合って一年以上経つけれど、こうして二人きりになると改めてどう接したらいいのかアスランは戸惑う。

(おとなしそうな性格だもんな…勢いのまま引っ張って驚かせたか?)

キラが顔を逸らしたのを、予想外の出来事に対する恐れから来るものかと採ったアスランは、とりあえず間を置くかと黙って横目で見守る。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ