駄文庫(短編)

□恋のサマーセッション
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捕まったら最後、自分とイザークの言い合いを眺めるのに飽きてディアッカかニコルが諌めるまで、こってりイザークに絞られるのがお決まりのパターンだ。
ただでさえうだるような暑さで体力的にも精神的にも参っているのに、なんとしてもそれだけは避けたい。

「―…う」

小さな、囁き程度の言葉にアスランは「え?」と聞き返す。
さっきまでこちらを向いてじっと見つめていた瞳は、はらりと下りた髪に隠されて、見ることは出来ない。

「…違う。偶然じゃ、ない」

今度ははっきりと聞こえた声。
いつも、おとなしいけれどニコニコと笑っていて、からかわれると怒り、試験の結果が悪いと沈んで、皆と話していると満面の笑みを浮かべるキラ。
しかし今の彼は記憶にある彼のどれとも違っていて、一体どうしたんだろうかと二の口をつぐむ。
俯いていてその表情を読み取ることは出来ないけれど、さっきまでの空気がガラッと変わっているということだけは肌で感じた。

「偶然じゃ、ないよ。僕、アスランを待ってたんだ」
「? 俺を待ってた?」

ニコルたちを挟んで下校したことももちろんある。
けれど今までにアスランもキラを互いに一人を指定して行動したことはない為、思わぬ発言にアスランは驚いた。

「俺に用があったんだ?なんだ、それなら言ってくれればあんなに走らなくても良かったのに」

そうだ、自分に用があるとあの時告げてくれれば全力疾走する必要もなかったし、キラをふらふらにするまで振り回すこともなかった。
イザークに対しても堂々と大義名分が立つというものだ。

―そこまで考えて、あれ、と思いつく。

でもあの時、先に自分の腕を取って走り出したのはキラの方だった。
イザークの声も響いていたし、後について来るメンバーが誰かはキラにだって予想がつくだろう。
ということは、あのメンバーには知られたくない事での用なのだろうか?

なんだ、何か悩み事か?でもあのメンバーに話せなくて、自分に話せることだなんて一体何なのだろうか。
うーん、とアスランが一人考え込んでいると、俯いていた顔をガバッと上げてキラがこちらを向いた。

(え。 な、なんで泣いてるんだ?)

正確には今にも泣きそう、だけれど。
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