駄文庫(短編)

□恋のサマーセッション
5ページ/9ページ

元々身長差がある為見上げる形となるが、キラが大きな瞳に涙を溜めて自分を見ている。
口を固く結んでじっと、長い睫が震えているのが妙に鮮明に見える。

(お、俺が泣かせたのか?というかなんなんだ?なんで泣くんだ?)

わけが分からない。
今日の昼休憩もニコルたちと一緒にとったが、その時、何かキラの気に障ることを言ってしまったのだろうか?

(えーと、確か今日はディアッカが女子大生をひっかけたとかいう話で…)

先日ディアッカが友人の誘いでコンパに行ったとかいう話を聞かされた。
大学生ばかりの中に紛れて参加し、「美人をゲットした」だのとさんざん自慢された。
そして翌日には振られたという話も。
「アスラン、おまえが行けばもてるぜ!頼むから今度行ってくれよ」だなんてしつこく誘われたなあ、なんて焦る頭でなんとか必死に記憶を手繰り寄せる。
それでも今キラが泣きそうな原因なんて欠片も見つけられなくて、アスランはもっと前のことかと考えあぐねる。
焦れば焦るほど自分の記憶分野はどんどんと回路を閉ざしてゆき、行き場を失うと再び目の前のキラに意識は戻る。

ふ…と視線を落とすキラの姿に「あ、涙がこぼれそう…」なんて、まるでスローモーションで見ているかのように追うと、シン、と空気が止まった。
流れる髪の隙間から、小さな口がゆっくりと開かれるのが見える。





「好きです」





キーンコーンカーンコーン…

『〜下校時刻となりました。校内に残っている生徒は、ただちに帰宅しましょう。部活動の…』

静かに校内アナウンスが流れる。この声は学校のマドンナ、ラクス・クラインだ。
しかしアスランの耳には何か次元の違うもののように響いていた。



「君が、好きです」


もう一度、鼻に掛かる独特の甘い余韻の残る声で紡がれる。

(好き…?)

今、キラの口から放たれた言葉は間違いなく自分に向けられたものだろう。
けれどその言葉の意味が自分の中では上手く読み取れなくてアスランはキラをじっと見つめたまま動けなくなった。

「突然こんなこと言って、ごめん。
 でも、君が、アスランが好きなんだ。それだけ…言いたくて…」

最後の方はまたもやか細くなっていってしまって。
繰り返し流れる校内アナウンスの声が今頃になってはっきりと耳に届いて、「ごめん」と何度も呟く声がかき消されてしまう。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ