駄文庫(短編)

□恋のサマーセッション
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(キラが俺のことを好き? で、ごめん、って?)

何を謝っているのだろうか。
細くて幼く見える姿が益々小さく、いや縮こまっていってしまっていくようでアスランは咄嗟に、膝元で握り締めていたキラの手に自分のそれを重ねる。
それと同時、重ねた自分の手の甲にぴちゃ、と降るものがあって、それをキラの涙だと解したアスランは無意識に握り締めた。

「あー…えーっと、その…」

(何を言おう、というかとりあえず泣き止んでもらわないと)

どういう涙なのか分からないが低く嗚咽を漏らし始めたキラに、何故だか罪悪感がこみ上げてきて胸の辺りがきゅうっと締め付けられる。
“キラは泣き虫だ”そう言ったのは誰だっただろう、泣き虫とはいえど泣かせてしまったのはたぶん自分。
しゃくりあげる声に混じって未だ「ごめん」と繰り返すのを聞いてるのが辛くて、けれど上手く泣き止ませる方法など浮かばなくて途方にくれたアスランは直球で問うことにした。

「あのさ、キラ。何を謝ってるんだ?それに俺、何か君を泣かせるようなことしたのか?」

(参ったな、泣かれることはたまにあるけど、同時に謝られるのは初めてだ)

次第に頭が冷静さを取り戻してきたのか、アスランはこれまでの自身の経験を振り返っていた。

ディアッカではないが、アスランはそれなりに女の子にもてる。
好きだと告白されたことも何回かあるし、けれどその数だけ断ってきた。
もてる人間ほど本命には振り向いてもらえないなんてよく聞くが、実際アスランもそのくちで、自分が思いを寄せる人にはいつも何も言えずじまいだ。
誰かを想ったままで付き合うことなど出来なくて、申し訳ないと想いつついつも「ごめん」と断ってきた。
アスランの言葉に頷いてくれる子もいるが中には嫌だと泣く子も少なくない。
それでもどうしようもなくて、「ごめん」と繰り返し謝るのは自分だったのに。

「ご…め…っ、迷惑なこと言って」
「いや、迷惑とかそんなことじゃなくて」

別に迷惑だとかはこれっぽちも感じていなくて、それよりもキラが泣いて謝る理由の方が自分は気になって仕方なかった。
“泣き虫”だと聞いてはいたけれど実際に泣くのを見たのはこれが初めてで、それにいくらなんでも16の男が泣くなんて余程のことだと思う。
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