駄文庫(短編)

□SS
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【May】



「ねえ、ここから出たら君と一緒にいられるのかな」





遺されたウタだけを頼りに辿りついた扉の奥に眠っていたのは、自分と同じほどにしか見えぬ少年だった。
彼が持っていたのは名前だけ。
だから自分も名前だけを差し出した。
傍にいるのに、それだけしかいらなかったから。

彼は長いことずっと幽閉されていたらしく体力もないようだったから、森から出ることもなくただずっと、話して笑いあっていた。
動き出した時間に彼はやがて名前だけでは足りなくなって、また自分もそれだけではいられなくなって。
遺されたウタの続きを探し出した。



そして見つけたその頃。
遥か遠く、城の鐘が黒く鈍い振動を響かせた。

彼の手を引いて、森を抜け出そうとした。
ウタのことは、黙っていた。
自分のことも、黙っていた。

何も知らない彼を、自分と傍にいることを望んでくれた彼だけを連れて駆け出した。
ウタの続きなど、今の自分には必要なかった。
彼だけいれば、それでいいと思った。

彼に刻まれたウタの続きは、永遠に自分が封じ込めておけばいいはずなのだから。

近づく馬決りの音にもたつく足を叱咤して、ひたすら前だけ見て走った。
いつかは留まる場所があると信じて、伝わる温かさだけを手にして走った。



どれだけ経ったのか。
気がついてみれば、荒廃した野原に立っていたのは自分ひとりで。
振り返っても目に映ったのは、黒く変色した肉片だけだった。

彼であったはずのウタは、知らず自分が響かせた。
翔ける音にかき消して、泣き叫ぶ声さえウタにした。

いつかの森は、すっかり緑をなくして死んでいた。
ウタが完成されたとき、それは終焉を意味していた。





世界の破滅を呼ぶウタを

両手を広げて浴びなさい
全てはおまえの為にある
世界はおまえのものなのだ

止まり木さえも薙ぎ払い
翔けていったおまえの願い
還る場所などありはしない

光も闇も飲み込んで
吐き出すものは おまえの翼
折れてしまっても進みなさい
戻ることなどできやしない

ほらほら周りを見てご覧
赤く散らばるおまえの羽は
次から次へと降り注ぎ
一つ残らず染め上げる

脇目も振らずに進みなさい
それがおまえの選んだ世界



世界の破滅を呼ぶウタを



歌って

謳って

謡って

唄って

詠って





【END…?】
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