駄文庫(短編)

□Little Flower
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―あっけない、終わりだった。

出会いは確か6歳頃、同じ幼年学校で同じクラス。
母親同士の仲が良く、学校以外で顔を合わせる機会も自然と多くなった。

「いつも二人、一緒だよね」

同級生に言われて初めて気がついた互いの距離。
言われてみればそうかもしれない、特に気に障ることもなかったし、何も言わなくても通じることが多かったから楽だったんだろう。
腐れ縁とも言うべきか高校生にあがっても何故かずっと同じクラスで、選択する科目も共通していて。
どこか抜けている彼を放っておけない自分の性格も手伝ってか、あれこれ世話を焼く自分の位置を他の誰もが認めて、揺るがなかった。

何がきっかけかは今となっては思い出せない。
ちょっとした好奇心、戯れにしたキスをきっかけに世間で言う“恋人同士”という括りになった。
それでも彼と自分は男同士だ、声を大にして言うには気が引けたし、何よりも互いに“自分たちは恋人同士だ”という意識は希薄で。
元々恋人同士という括りになるのだという事実ですら、自分たちの様子を疑問に思って問い詰めた友人に指摘されて気付いたくらいだった。

坂道を転げ落ちるよう、というのはこういうことを形容するものなのか。
キスをしてしまえばあっという間、その先も何の躊躇いもなく進み、華奢な体を目の前に理性なんて脆くも崩れ去った。
―この時、気付けば良かったんだ。
嫌がる素振りも見せず、ただいつも自分を見上げる彼の瞳。

了承の意だと信じて疑わなかった俺は、馬鹿だ。





* * *



何度目か分からないある日、突然彼は言い放った。

「もう、こんなこと、止めない…?」

震えた、声だった。

「アスランの中に僕なんて、昔からこれっぽちもいないじゃないか」

向けられた背中の小ささに、思わず目を凝らした。

「ごめんね」


パタン、と閉じられたドアを、ずっと見つめていた。

“アスランの中に僕なんて、昔からこれっぽちもいないじゃないか”

ああそうだ、周りは俺たちのことを『親友』だとか言っていたけれど、そんなことお互いに確認した試しはない。
いつの間にか隣にいただけだ。
ただ、閉じられたはずのドアの音だけが、いつまでも耳にこだました。


そして数日後、ひとつの噂がクラスで広がった。

“キラに彼女が出来た”

あり得る話で、有り得なかった現実だった。




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