駄文庫(短編)

□Little Flower
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自分に与えられていた位置なんて実は、とんでもなく軽いものだったのかもしれない。
昨日まで変わらずあったはずのそこは、いとも簡単に別の人間が居座った。




「キラに彼女が出来たってマジだったんだな」
「しかもフレイ・アルスター!意ッ外〜」

フレイ・アルスターとは隣のクラスの少女だ。
父親が政治家とあって学園内でも有名人、本人もいわゆる美少女と称される部類に入り男子生徒から人気がある。
そのフレイとキラが付き合うことになったという噂が広まるのに、1日もかからなかった。
休み時間のたびにフレイはキラのいるこのクラスにやってきて、何やら楽しそうに話をして帰ってゆく。
昼の休憩時間は二人でどこかに向かい、終了ギリギリに帰ってくる。
部活のない日は授業が終わると教室のドアの前でフレイがキラを待っていて、並んで校門を出てゆく。

パターン化されてしまった光景に最初こそ誰もが驚いたものの、その内それは日常と化していった。
ただ一人、俺だけがそれに違和感を覚えたまま毎日が過ぎていった。

「おまえら、本当に別れたワケ?」

いつだったか俺とキラの関係を“恋人だ”と指摘した友人が、窓際の席で話が弾んだ様子のキラとフレイを横目に話しかけてきた。

「別れたも何も。付き合った覚え、ないし」
「へえ?」

どかり、遠慮もなく前の席に座って、次の授業の予習をする俺のノートに影を作った。

「その割には未練タラタラな顔して、フレイ・アルスターを睨んでるみたいだけど?」
「思い過ごしだろ」

くだらない。
予習の邪魔をされるのはゴメンだ、推測でものを言う友人を見上げると、からかっていると思ったその目が予想に反して真剣の色を帯びていて、ペンが止まった。

「どっかの感動ストーリーじゃねえけど。
 ―失ってからじゃ、遅いぜ」

始まってもいない関係に失うも何もない。返事をすることすら煩わしくて、一瞥くれてやるとノートに視線を戻す。
僅かに溜息をつくのが聞こえたが、無視して続けた。
チャイムが鳴るとガタガタを席を立つ音があちこちで響く。
視界の端でフレイが教室を出てゆく姿が、映った。





その日は生徒会があって、下校時刻が遅くなった。
校内放送が流れる中、足早に廊下を歩いていると曲がり角でふっと進行方向を妨げられた。
微かに香水の匂いが鼻を掠める。

「アスラン・ザラ、でしょ?」





―フレイ・アルスターだった。



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