駄文庫(短編)

□Little Flower
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間近で見るのは初めてだ。
窓から差し込む夕日に照らされても、確かに整った顔立ちをしている。

「話すのは初めてよね、フレイ・アルスターよ。よろしくね」
「…どうも」

自信ともとれるその微笑む様がやけに癪に障る。
早くこの場から逃れたくて、一礼してすり抜けようとした。

―が。

「あ、ちょっと待ってよ。ききたいことがあるの!」

一体何の用だというんだ、引き止められて無意識にも顔が引きつる。

「何だ」
「キラ、最近何か欲しいものがあるとか、言ってない?」
「は?」

何を聞かれるのかと思ったらその焦点がキラであるということと、何故自分がこうして引き止められているのかかみ合わない。

「もうすぐキラの誕生日でしょ。何か聞いてない?」

キラの誕生日。
そういえば毎年5月のキラの誕生日はキラの家で俺と母も招かれてパーティーが行われていた。

「なんで俺にそんなこと聞くんだ。直接本人に聞けばいいだろう」
「わッかんないわねー!秘密にして驚かせたいからに決まってるでしょ?
 親友なんだし、キラから何かそういうこと聞いてないかと思って」
「親友って、俺とキラが?」
「? そうよ」

今更何だとでも言いたげに、フレイが首を傾げた。

「それ、キラがそう言ったのか?」
「違うけど…。でも皆そう思ってるわよ。違うの?」

皆って何だ。
皆、俺とキラが親友だと、そう思っているのか。
だいたい親友って何なんだ。ただ隣にいる時間が長い人間同士が親友だというなら、世の中どいつもこいつも親友だらけだろう。
俺とキラはそんなんじゃない。

「そういえばあなたたち、最近あまり一緒にいないわよね」
「…その分君と一緒にいるからだろう」
「それはそうだけど。でも、なんだかよそよそしくない?」

余計なお世話だ。自分で俺の居場所を奪っておきながら勝手なことを。



勝手な…。



―勝手?



「男同士の友情ってわかんないけど、キラ、ちょっと元気がないのよ。
 喧嘩したなら早く仲直りしてちょうだい」

怒ったように忠告する表情に、頭の奥で何かがプツリ、切れた。





「俺とキラは、親友なんかじゃない!」



びくり、自分の声の大きさに驚いたのか肩を震わせ目を見開く様に、どこか下卑た愉悦がこみ上げる。
チャイムの響く廊下。
伸びる影をひとつ残して、俺は学校を出た。



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