駄文庫(短編)

□Little Flower
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親友でも、恋人でも、呼ばれる括りなんてなんでも良かった。
何も求めない振りをして求めた結果が、彼を泣かせた。

どんな思いで、自分の腕に捕らわれたのだろう。

「遅すぎるんだよ、馬鹿アスラン…!」

もう一つ、クッションが投げられる。
けれどそれは俺に届くことはなく、キラの足元に転げ落ちた。

「ごめん」
「バカ」
「ごめん。でも、好きなんだ」
「…ばか…!」

まるで固まったように動かすことの叶わなかった足がすんなりを踏み出すことを許した。
近づく自分にキラが怯えたように肩を震わせるのが見えたけれど、構わずに隣に腰掛ける。
泣き虫な彼の泣き顔を幾度となく見てきたけれど、こんなにも、彼の流す涙を愛おしいと思ったことはなかった。
零れるそれすら惜しくて、そっと頬に手を添えるとボロボロと拭いきれず伝ってゆく。
涙でぐしゃぐしゃにして壊れたように「ばか」と繰り返すキラをどうしようもなく抱きしめたくなったけれど、今更そんなこと、簡単に出来るはずもなかった。

「フレイ・アルスターと付き合ってるんだってな」

“失ってからじゃ、遅いぜ”

確かに、もう遅かった。
かつて自分に与えられていた場所は、もう別の人間へと差し出された後だ。
キラにしてみれば“ただ隣にいる人間”というポジションと“恋人”というポジションでは全く意味が違うのだろうけれど。

「…それ、皆に言われるんだけど、なんで?」

ごしごしと目元を拭う隙間から、くぐもった声が問いかける。

「だって付き合ってるから、あんなにべったり一緒にいるんだろう?」
「フレイには好きな人がいるよ。中学の時の同級生だった、サイが」

“サイ”とは確かに中学の時にキラが仲良くしていたクラスメイトだ。
父親の都合で引越しをし、寮生活を送っていると以前に聞いた記憶がある。

「フレイ、お父さんが政治家だから、別の人と婚約させられそうなんだって。
 でもサイとは連絡をとったりもしてないから、唯一今の学校でサイと連絡とれるの僕だけだから、だから…」

「否定しても皆、信じてくれないんだもん」
そう言って目元を擦りながら、漸く涙がおさまる様子を見せ始めたキラの瞳がこちらを見上げる。
はた、と目線が合う。

「…付き合ってるんじゃ、ないのか」
「違う、けど」



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