駄文庫(短編)

□Little Flower
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気の抜けた自分の声音に呼応するように、キラまでどこか浮ついた声だ。
今、傍から俺たちを見たら恐らくとんでもなく間抜けな顔をしているだろう。

「違う、のか」
「うん」

―力が、抜けた。
考えてもみればたとえキラに恋人が出来たとしても、今生の別れになるわけでもないのにまるで生きる道全てが断たれたかのような絶望を背負っていた。
恋人になったからといってキラの隣にいられることを一生保障されるわけでもないのに。
それでも、まるで暗雲から抜け出すことの出来たようにみるみる開けてゆく胸の清々しさに、自分でもおかしくなった。
たとえキラがフレイ・アルスターと付き合っていたわけではない事が判明したところで、俺とキラとの関係に変化はないのだから。
涙が止まったのか、上下に震えていた肩が落ち着きを取り戻してきたキラの姿を確認して立ち上がる。

「今まで、悪かった。おまえが怒るのも当然だと思ってる。友達でいてくれなんて図々しいことを言うつもりもない。
 でも、気まずいとは思うけど周りの目もあるだろうから、苦痛でもこれまで通り接してくれるか」

フレイが言っていた通り、俺とキラは親友であると周りには認知されている。
そもそもの原因は俺にあるわけだからなんとかやり過ごすけれど、俺とキラが口をきかないとなれば回りは余計な勘繰りをするだろう。
そう、気遣っての一言だった。
けれどキラはそれを耳にするなり今度は明らかに怒りを含み、睨みを利かせて見上げてくる。

「…どこまで勝手なの、君は」
「え」
「僕のこと好きだって、言ったくせに」
「え、いや、そうだけど」
「だったら、なんでそんな変なこときくの」

泣き止んだはずの赤く腫れた瞳にまたも涙は溢れてきて、瞬きをした振動でそれはまた零れそうだ。

「アスランは、頭いいくせにそういうこと、どうして分かんないんだよ!」

先程、投げて飛距離が足らずに転げ落ちた足元のクッションをキラは素早く拾い上げて、俺の顔に押し付けるように投げつけた。

「っぶ…!」
「本当に馬鹿だよ、君は!」

じん、と痛む鼻を擦りながらクッションをどけるとまた泣き出してしまったキラの姿に、はっと気付く。
―そういう、ことなのか?
今まで通り自分と接してくれる、そう採っていいということなのか。



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