駄文庫(短編)
□敵がいなけりゃ
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君は僕の 最善の敵でいて
僕らは憎しみと嫉みに無縁であるほど偉大じゃない
けれど、それを恥じないほどには偉大でいよう
―― 敵がいなけりゃ ――
生身でその場に居たのなら、軽く数百メートルは飛ばされるであろう熱風が、金属片を巻き込んで地平線をさらっていく。
モニターには、砂の混じった厚い爆煙の隙間からチラチラと燃え盛る炎が見える。
今となっては、さして心を揺さぶる原因ともならないこの光景。
障害物の少ないこの土地では、耳を劈くような爆発の轟音も、あっという間に消えてしまうだろう。
わずかな電子音しか響かない一人きりのコックピットの中で、ただの結果としての景色を、紫暗の瞳は映していた。
雑音雑じりの電波に次いで、クリアな、帰艦を命ずる言葉が届いた。
〈もう敵はいない〉
その合図だ。
心のどこかで安堵しつつも体は未だ緊張を解かず、レバーは固く握り締められたままだ。
少しずつ明けてゆく視界の中に、炎以外に動くものがないのをモニターでも確認すると、
キラは慣れた手つきでレバーを操作し、小1時間前よりかなり低くなった砂の大地を蹴り、
母艦であるアークエンジェルへと戻っていった。
振り返ることは、なかった。
自分の行為を賞賛する者、嫉む者、利用する者。
人の数だけそれは存在するけれど、今のキラにとって、どれも違いはなかった。
あるのは、「敵」か「味方」か。2つしかない。
賞賛するからといって味方でもないし、嫉むから、利用するからといって敵とは言えない。