駄文庫(短編)

□敵がいなけりゃ
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格納庫に戻り、“自分の機体”となったストライクから降りると、おそらくは「味方」であろう、自分の左肩にあるエンブレムと同様のものを身につけた者たちが、歓喜のこもった声色で、自分の名を、いつそうなったのか分からない称号をおまけに付けて呼んできた。


先程のモニター映像とは違い、目の前にあるものなのに、どこか遠いもののように感じた。


皆口々に自分を褒めているようだが、褒められている理由が分からなかった。
ここまで来てしまった原因を思い出そうとしても、その余裕が、なかった。
「敵」と「味方」も、その境界線は、日に日に曖昧になっていった。
眼前にあるものを討つことだけが、自分の存在意義だった。




「僕が…僕が討たなきゃ…!!」




誰も守れない。
自分も、守れない。




差し伸べられた手をとる事は、“してはいけない事”に分類されていた。
何故かはやはり分からなかったけれど、それも「敵なのだから」と何となく納得していた。


そう、味方が言ったから。


敵だから討つ、いつの間にか刷り込まれた公式に、疑問を抱く余地もない。
それも、“してはいけない事”に分類していた。
そうでないと、足元が水平を保てなかった。





* * *




うわごとのように繰り返された言葉は、何の重みも無く、虚空へと消えた。


―― ああ、こんなに軽かったんだ…。


かつて自分の瞳に映った景色の中心に自分が居る事に気付いたのは、自分も「討たれるべき敵」なんだと解ってしまった、ほんの、すぐ後のことだった。
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