駄文庫(短編)
□星降る夜に騒ごう
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「キラ?何なんだ、ソレ」
今となっては習慣ともいえる週末の帰省。
今週も例に漏れず、キラは長年を過ごした院へ顔を出した。
テスト前で放課後は空きとなったシンはちょうどその時間に出くわし、キラの姿を目に留めると少しだけ声を弾ませ近寄るが、その手に握られた見慣れないソレに視線を奪われ眉を顰めた。
「ああ、これ?農学部の子に貰ったんだ〜
院にもあるとは思ったんだけど、もしかしたらと思って。余分なら僕の寮に飾ればいいしさ」
キラの手に握られたソレ。
細くしなやかな枝に繁る青々とした針葉。
目の前のものは随分と小振りだが、今朝シンが院を出る時にも同じようでもっと大きな、きらびやかなものを広間で見た気がする。
「…ここにパンダはいないぞ?」
それはいわるゆる「笹」と呼ばれるもので。
あまり身近でないその植物をこんな間近で見るのは今まで十数年しか生きたことのない自分の経験の中でも、ある特定の日に限られる。
別に動物園にいるパンダの好物だから動物園に行けば見れる、そういうことでもなく、ましてパンダのいる動物園などそう多くもなく。
だとすれば残る答えは決まっているのだが素直に言うのも面白くないし、ほんの少しひねて答えてやった時のキラの反応が見たくてつい、いつもの癖で遠回りにつついてみる。
「もー!」
自分の期待通り、キラは年齢にしては少し幼いむくれた顔を見せて、シンは満足すると同時に心のどこかがストンと落ち着く。
それをからかいと採ったのか、キラは眉根を寄せてじとりと睥睨する。それが益々シンの悪戯心を煽るがそこは抑えてみるものの、やはり笑いがこみ上げてしまった。
「ごめん、分かってるって」
怒らせてしまってはいけないと思い、笑い声の隙間をなんとか謝罪で埋める。
顔を紅潮させて睨む姿も可愛いなと思う自分もどうかしてるが、こんなことで真剣に怒るキラもとても自分より年上とは思えない。
お互い様だけれど先に仕掛けたのは自分だから、ここはちゃんと謝っておこう。
「七夕、だっけ?今日。昨日小学生のやつらがなんか色々と作ってたよ」
「やっぱり?まあいいや、持って帰って寮のバルコニーに飾ろっかな…」
例年のことだからやはりこの日の為に院には立派な笹が用意されていた。
日も傾きかけて、あと数時間もすれば色鮮やかに装飾された笹がグラウンドに姿を現すだろう。