短編小説

□最低な日と最高な日
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恩師は秋の紅葉が庭の木々に美しく色付く様を眺めながら小さな銀髪の子供に言うのだった。

「誕生日というのは一年で最高の日を祝うものなんです。銀時と出会った日からもうすぐ一年が経ちますね。その日が銀時。君の最高の日となりますよ」

子供――銀時の癖っ毛のある銀糸を優しく撫で付けながら微笑むその師の姿を目にし、本当にそんな日が来るものなのかと子供には似合わない疑心に満ちた眼差しを師に向けた。あの頃は疑う心をまだ捨てきれなかったから、師にそんな冷ややかな眼を向けた事は本当に心苦しかったと今だから思える。外でひらりと舞い落ちる紅葉と同じ真っ赤な色を映す瞳に、師はただ笑って銀時の頭を撫でる手つきを止めようとはしなかった。
きっとその時、師は己が生きている限り銀時が人間として生まれ変わったあの日を祝い続けようと心に決めていたのかもしれない。銀時もまた最初こそは自分の誕生日というものに関して興味はなかったが、その日を何度も迎える内にたった一日のその日が大切な人と過ごす掛け替えのない一日にという事を強く記憶に焼き付けた。
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