短編小説

□その人は私を人として見てくれる・傷心
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二週間前。見るも無残な姿で帰ってきた銀時に新八はそのあまりの凄惨な光景に卒倒しそうになるほどの衝撃を受けた。
何故、あの誰よりも強い銀時がこんなにも傷だらけになっているのか。疑問は治療を施される彼の痛ましい姿を集中治療室の外から眺めている時に怒りと共に込み上げてきた。
銀時がただ黙ってやられる訳が無い。何か理由があるはずだ。そう考えた新八は己の隣で涙を流す神楽を見やってから銀時を運んだ山崎を問い詰めた。彼はその答えに頑なに口を開く気配を見せなかった様子に更に怒りは助長し、山崎の隊服の胸倉を感情任せに掴んだ。彼はとても苦しそうに息を詰めたが、それは新八が襟首を締め上げる行為以外の意味が見えた気がした。
新八がその湧き上がる疑問と疑念を山崎にぶつけようと口を開いた所で、抑揚のない声が背後から新八を呼んだ。そのせいで動きを止めてしまった。
背後を振り返ると其処には一番隊隊長の沖田が立っていた。普段の銀時と何処かやる気のなさが似ている彼が今日に限って顔を曇らせ眉間に似つかわしくない皺を刻み込ませていた。その様子を見た新八が今度は怒りの矛先を沖田に変えて彼に詰め寄る。沖田は普段は物静かな口調で話す新八の変貌ぶりにも眉一つ動かさずに新八を見返すだけ。その反応が新八の怒りを更に逆なでさせるのに沖田は気付いているのだろうか。
新八はいつもの冷静な自分など顧みずに沖田に問うた。銀時をこんな目に遭わせたのは誰かと。
沖田はそれに一度視線をガラス越しの銀時へと向ける。まるで視線だけで銀時と会話を繰り返したかのようにして一度瞼を伏せると、暗い澱んだ色を宿す茶色の瞳を新八へ向けた。その視線だけで背筋が一瞬凍りついたように感じたが、それでも新八は沖田の言葉を待った。
 沖田の形のいい唇が小さく動く。その口から発した言葉に新八はもう一度気を失うほどの衝撃を強く受けた。
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