短編小説

□これからもずっと
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 ブツブツと未練がましく文句を吐き出す土方を浴室に無理矢理押し込めるように浴室へ誘導し、その間に今年最後の夕食である年越し蕎麦を手際よく作り始めた。
 既製品の麺に出汁や醤油などを使い少々のアレンジを施した汁の中に茹でた麺を放り込む。土方が浴室から濡れた髪をタオルで拭きながら出てくる頃には年越し蕎麦の完成だ。炬燵に向かい合うように並べた箸と器。お茶が入った急須と湯呑を二つ置いて土方が席に着くのを待つ。やがて髪を乾かし黒の着流しを羽織った土方が和室に現れる。

「お、美味そうじゃねえか」
「ふふん。俺の力作。早く食べようぜ」
「ああ、そうだな」

 土方を自分の手前の席に促して二人は向かい合いながら箸に手を乗せた。パキリと木の割れる乾いた音を鳴らしながら二人は暖かい湯気を放つ蕎麦を食べ始めた。最初に蕎麦を口にした土方の反応は大層美味そうに頬を緩ませたものだった。

「うめえなぁ、やっぱり。銀時の作る料理はどれも最高に美味い」

 お世辞かと思える程大袈裟な感想に銀時は困ったような笑顔で土方を見る。

「相変わらず十四郎はリアクションがオーバーだな」
「事実を言ったまでだろ? 本当にうめえんだからよ」
「それ去年も同じ事言ったの覚えてるのかよ」
「ああ、覚えてるさ。あの時の銀時の作った蕎麦も絶品だった」

 恥じる事なく平然と言ってのける土方に銀時は嬉しさと共に込み上げる恥ずかしさに耳朶が熱く熱を持つのが分かった。まったく、この男は人を褒める事が得意なようで。まあ、本人にしてみたら事実を言ったまでなのだろうが。
 一年前の今日も同じ台詞を真顔で囁く土方の顔を思い浮かべながら銀時は不意に過去の事がゆっくりと湧水のように湧き出す感覚を覚えた。

「そうだな……十四郎とこうして暮らし始めて五年が経つんだな……」

 しみじみと呟かれた過去の年月に土方も持っていた箸を一度箸置きに置いた。五年の年月が過ぎた相貌の土方も懐かしむように瞳に過去の情景が映ったように見えた。
 この五年間。たくさんの事を経験した。辛い事。悲しい事。悔しい事。その反面楽しい事も嬉しい事もあった。その二つの相反する感情と記憶が交差して今がある。先程の夢はそんな幸せな頃を彷彿とさせる内容だった。
 胸の中心が熱くなるのを感じながら銀時は懐かしそうに顔を和らげた。

「新八も神楽も巣立ったけど、俺の隣には十四郎がいてくれた。いろんな事があったけど、今俺は十四郎とこうして一緒に生きられる事がすげー幸せだな」

 目の前の昔と変わらない土方の顔を見つめながら、銀時は幸せを存分に表した顔で土方に笑いかけた。その昔から変わらない銀時の優しげな表情に土方も引き寄せられるように優しく微笑んだ。

「俺もだよ」

 外の寒冷とした寒さなど感じさせない暖かな空気。喉に流し込まれた蕎麦の熱が身体の中も温めてくれる気がした。そして心もまた、土方の傍にいる事ができるだけで春の太陽のように暖かい。
 二人が再び箸を手に取り食事を再開する。そしてその後は何気なくテレビを眺めたり、二人の時間を噛み締めるように会話を繰り返した。
 それから時刻は年を越す手前までに迫っていた。
二人は流れっぱなしだったテレビを消してひと組の布団に身体を寄せ合っていた。土方の体温をもっと傍で感じたい。二人だけの時間をもっと味わいたい。そんな昔に比べれば少し我侭になった銀時の願いがこの状況を作り上げていたのだ。
 暗い室内に二人の静かで落ち着いた呼吸音だけが、静寂なこの場に微かな音を生み出す。
 肩を抱かれるように土方の腕に頭を置く銀時。顔のすぐ近くには土方の心臓があって、その鼓動に静かに耳を傾けていた。トクントクンと生ある鼓動が傍らで聞こえるだけで、銀時の心は母の腕の中で抱かれる赤子のように安心できた。

「もうすぐ今年も終わるな……」
「そうだな」

 土方の腕の中でゆっくりと押し寄せてくる睡魔と戦いながら銀時は呟いた。それを土方は天井を仰いだまま静かに相槌を打つ。
あとどのくらいで年が終わるのか。そんな事をウトウトと閉じかける瞼を必死にこじ開けようと奮闘しながら思えば、朦朧とした意識の端で思い鉄を打つ鐘の音が聞こえた。何度も打たれ響く除夜の鐘の音色に銀時の頭を支えていた土方が動いた。

「十四郎?」

 銀時の頭を支えながら土方が身を起こし、暗闇の中でグルリと身体を銀時に向ける。布団に寝かせたままの銀時の上に乗るように覆い被さる土方は暗がりでも分かる整った笑みを見せつけた

「あけましておめでとう、銀時。これからもよろしく頼む」
「……おいおい、十四郎。その台詞と今の体勢が全然噛み合ってないんですけど」
「新年を迎えたんだ。夫婦の俺らが新年一発目からやる事と言ったら……アレだろ?」

 先程の優しい笑みに少々意地悪さが孕みながら土方は右手で銀時の頬を撫でた。肌に伝わる土方の掌の温もりと皮膚が輪郭をなぞり下へと進む。突き出た顎を指で挟みクイッと持ち上げられた。やれやれと固定された顔を軽く左右に振りながら銀時は蠱惑的な双眸で土方を見上げた。

「ったく、毎年十四郎はそればっかりなんだから困るぜ」
「でも、嫌じゃねえだろ?」

 余裕の表情で銀時を見下ろす土方。此方がどのような答えを返すかを熟知している顔だ。元より銀時の中ではこの誘いを断る気など毛頭ないのだ。

「上等だよ」

 ニヤリと口角を上げる銀時に満足そうに微笑みを返す土方の唇が銀時のそれと重なる。夕方の時の接吻以上に濃厚で熱い口付けを何度も繰り返した。

「っ、ん、はあ……」

 唇が離れる一瞬の間で銀時の唇から甘い吐息が漏れ聞こえる。長く続く口付けに銀時の躰は激しく酸素を求めるが、土方の荒々しくも優しさを残す口付けがそれを防ぐようにして落とされる。
 躰に回された土方の手が銀時の銀糸を優しく撫で、項に回されたもう片方の腕が銀時の躰を自らの方に引き寄せるようにして抱擁する。何度も位置を変えて責められる口付けに銀時の目尻から薄らと涙の珠が浮かび上がる。苦しいと銀時が土方の背中を叩いて抗議すると、漸く土方の口唇が離れた。

「っ、はあっ、はあ……ちょ、がっつき過ぎだって」
「俺はもっとてめえを味わいたい」
「ならもっとゆっくりやれって」
「駄目だ。我慢できない」
「ちょ、んんっ!」

 反論を許さずに土方は再び唇を銀時に押し当てた。口内に残ってしまった抗議の声はあっと言う間に喘ぎ声へと転じ、仕方なく反論を早々に諦めた銀時は大人しく土方の腕の中で口付けを受け入れ続けた。
 その行為も最中で動いた土方の手により場面は動く。器用に着流しを開けるその仕草に感嘆しながらも、銀時の躰は一糸纏わぬ生まれたての赤子の姿へと変えられてしまう。その間にも土方の口付けは止むわけでもなく、そのあまりの器用さに銀時は毎度驚かされ続けていた。
 息の上がる銀時の唇から一度土方が離れる。自らの口内に指を入れて存分に唾液を指に纏わせると、まだ触れていない秘部の中に一本指を差し入れた。
 長い接吻の間で興奮した自身は疾うの昔に勃ち上がり、フルフルと銀時の腹の上で高まる熱を吐き出したそうに震えていた。

「辛そうだな。早く出しちまいたいだろ?」
「んんっ、出し、たい……」
「分かった」
「……あ、れ?」

 土方の返事に銀時は安堵したように詰めていた息を吐き出した。一度千摺りで欲を吐き出してくれる。そう思っていた銀時だが、目の前にあった土方の顔が消えた事に一瞬戸惑いの声を上げた。首を伸ばして土方を探すと唐突に自身の先端に滑りとしたものが触れ、驚きで大きく声を上げてしまった。慌てて下肢に顔を向ければ自身に顔を埋める土方の頭が見えた。銀時の瞳は更に驚きで見開かれる。

「ちょ、そんな事したら……!」

 制止の声は自身をベロリと何度も舐め上げられた事によって強制的に喉の奥に引っ込めてしまった。土方の巧みな舌使いに銀時の亀頭からは先走りの蜜が零れ始める。それを綺麗に舐め上げられながら、次に土方の歯が亀頭を甘噛みした瞬間に弾けた脳内は自身から精を放ってしまった。

「っ」

 男としての快感を得た銀時が余韻に浸る間もなく秘部に差し込まれていた指がもう一本増やされた。一度果てた事により後孔の緊張が緩んだ隙をついて増やされた土方の指が解すように何度もナカを掻き混ぜた。

「うんん、ふ、ああ……」

丁寧にナカを解す土方の指によって濡れる事のない後孔が女の玉門のように濡れた。それを確認した様子で土方が指を引き抜くと、着流しの裾の間から立ち上がる男根を銀時の秘部に宛行い、先端をゆっくりとナカへ押し進めた。

「ひゃうっ、んああ……!」

 ビリリと躰に走る電流のような刺激。その衝撃に身を大きく震わせ天井に向けた口唇から艶かしい嬌声が隠す事もなく上がる。ズブリズブリと腸壁を押し広げて奥に侵入する肉棒に銀時は息を詰めて耐えた。壁を刺激する度に内壁を通じて感じる快楽はとても微細に銀時の脳に伝えてくる。その触れる肉と肉との感触から滾る熱の温度まで。その細部に至るまでの全てが土方のものであると実感する度に、銀時は嬉しかった。

「動くぞ」

 土方の男根が根元まで入ると耐え切れない様子で額から汗の筋を流す土方が言う。腰を掴み銀時の無言の返事に応えるように土方の腰が動いた。最早ナカで大きく怒張した土方の男根は早急の解放を求めていたのだろう。忙しなく動く土方の男根に銀時は後孔を何度も突き上げられる強烈な刺激に何度も精を高く放つ。

「あっ、あっ、んああ! ああ!!」

 女のような高い嬌声を上げる銀時の最奥を喰いつくように穿つ土方。ガクガクと肩を揺すられながら必死に土方の背中に腕を回し、大海の底に溺れるような快楽から耐えようと土方の背中に爪を立てる。ガリガリと赤い線が幾重にも引かれる背中だが、目の前の土方はそんな微弱な痛みなど感じていないようで、ただ我武者羅に腰を動かし続けた。

「と、とうし、ろう! も、う……!」
「くっ……」

 何度も絶頂を迎える銀時の欲に染まった顔が限界を伝えようと涙を流しながら土方に訴える。それに応えようと土方の顔が歪むのと同時にナカで土方の精が吐き出された。ぶつけられる熱い感覚に銀時はもう一度果てた。
 長い快楽の余韻が微温湯のように銀時の脳内を満たす。銀時の躰に被さるようにして土方の身体が覆ってくる。汗ばむ身体と熱が互いの肌で直に触れ合い、その存在を確認するように二人は抱擁した。

「はあ、はあ……っ、銀時……」

 耳元で囁かれる熱い息遣いと低い声。それに銀時は朦朧とはするがまだ失われない意識の全てを土方に向けた。

「っ、何……?」

 荒く呼吸を繰り返す土方が息を整える事もなく銀時の視界に再び顔を覗かせた。それに銀時は微かな光を反射し、宝石のように美しく輝く紅い瞳で土方を見る。
 土方はその瞳にまるで吸い寄せられるように顔を寄せて触れるだけの口付けを落とした。

「来年も、その先も……ずっと二人で年を越そう。もう離れねえ、離さない」

 その言葉を体現するように銀時を包み込む土方の腕に力が篭った。あまりの強さに痛いと喚くが目の前の土方は聞こえているのかいないのか。決して力を緩めなかった。
 銀時は首筋に触れる土方の濡れた黒髪を空いた片手で優しく撫でながら、疲れを見せない笑みで土方にこう告げる。

「俺も……ずっと十四郎と一緒にいるよ」

 毎年の始まりに告げる二人の誓い。それはこれからもこの先も、ずっと続くだろう。



END
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