短編小説

□恋愛事情回路
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色とりどりのネオン輝く深夜のかぶき町。
雑踏ひしめく大通りをフラフラと既に出来上がった足で歩くのは銀髪の侍、名は坂田銀時。
彼が上機嫌で鼻歌を歌っているのは、万年金欠の彼にしては珍しくパチンコの女神が彼の元に舞い降りた事にある。
そしてその帰り。
久方ぶりに一杯引っ掛けていたのはつい一時間前の事だ。

「・・・ヒック、さーて次はどこ行こっかなー」

千鳥足で歩く銀時は、通りを往来する人々の肩に当たらないよう気を配って歩く事などできないほど飲んでいた。
まだ飲むのかと、ここにツッコミ担当の駄メガネがいたらすかさず鋭いツッコミが入っただろう。
だが如何せん、銀時の足を止める者など誰もいない。
その事をいい事に銀時は次に向かう先をフワフワする頭で思案し、ここから一番近い行きつけの店にしようと思い足取りをそのままに向かうのだった。

「へーい、親父。久々に来てやったぞー」

店内に入るとカウンターに一人とテーブルに数人の客がおり、カウンター越しには気の良さそうな笑顔を浮かべる店主が立っていた。
店主は扉から入ってきた銀時を認めると「お、銀さん」と快活な様子で銀時を迎え入れる。
そんな店主の目の前に座るように銀時は木製でできた椅子に腰を下ろす。
席に着くと同時に蒸気の漂う暖かいおしぼりを出され、銀時は軽くお礼を返し両手と顔をゴシゴシと拭いた。
一連の動作を終えるとこれまたタイミング良く熱燗がつまみと共に銀時の前に差し出され、店主の「その顔は勝ったね」という銀時の上機嫌な理由を看破した言葉を言うのだった。
それに銀時が「まあな」と気分良く答え、熱燗に手を伸ばした。
銀時の返答に店主が笑うと、茶化すように横から別の声が入った。

「なら、ここで飲んだくれてないで可愛い恋人のために簪の一本でも贈ってやったらどうさね」

店主との会話に闖入してきた声に銀時は僅かにムッとしながら頬づえをついてぞんざいな言葉を返す。

「生憎俺には可愛い恋人はいないんでね。可愛い嫁ならいるけど」
「ほお、それは誰だい?」
「結野アナ」

誇らしげにそう答える銀時の反応に思わず声の主は吹き出してしまったようで、それに立腹したように銀時が声の主に勢いよく振り向いた。

「んだよ!文句あっか!?俺だって夢持ちたいんだよ、結野アナとランデブーしたいんだよ」
「クックックッ・・・いや失礼。高嶺の花なんぞに恋焦がれてるなんてアンタも子供だねと思ってさ」
「はあ!?男はいつまでも少年なんだよ、ピュアな心を持っていて何がわる・・・あり?」

笑いを堪えるため顔を伏せていた人物の顔が銀時の目に留まった途端、銀時の頭に疑問符が浮かび間抜けな声を上げてしまった。
そんな銀時に更に声の主は一笑を返し、左手に持ったお猪口を傾けた。

「どうした?間抜けた面してよ、兄弟」
「てめっ、金時!」

銀時の横で悠々と酒を口にする人物はあの金魂篇騒動を起こした張本人、坂田金時だった。
それに驚いた顔を浮かべる銀時だったが、直ぐに眉間に皺を寄せ金時から顔を背けた。
銀時の反応に「つれないねェ」と口唇を吊り上げて、ガタリと音を立てながら椅子から体を浮かせ銀時の隣の席に移動した。

「なんだよ、こっち来んじゃねえよ」

隣に座る金時に明らかな嫌悪感を放出し、じろりと横目で睨みつける。
そんな銀時の視線などどこ吹く風のように金時は一緒に持ってきたとっくりを手に笑ってみせる。

「まあそう言わずに一緒に飲もうや」
「うるせえコノヤロー。飲む気失せたわ。親父、勘定」

迷いなくその場から立ち上がりその場を後にしようとする銀時の腕を、金時の血の気の通わない冷えた手が掴んで押しとどめた。

「!?」
「まあゆっくり酒でも飲みながら話しようや。別に俺はお前に何かしようってんじゃないんだからよ」
「・・・またかよ。俺はお前と話したい事なんてねェよ」
「ここの酒飲みたいだけ飲んでいいぜ?全部俺の奢りだ」
「・・・クッ、またその手か。お前ホントずるい奴」
「褒め言葉で受け止めとく」
「ちっ」

忌々しく舌打ちをし、けれどタダで酒を飲めるという誘惑に勝てず結局浮かした腰を元の位置に戻してしまった銀時。
正直ここでこの男と会うのは今が初めてではない。
過去に何回も、銀時の行く先を予測したかのように現れては一緒に酒を飲めと誘ってくる。
最初はあの主人公入れ替わり騒動の事もあり、逃げようとしたが今のように腕を捉えられ半ば強引にその場に押し止められたのだ。
それからというもの酒を奢る事を条件に嫌々ながら金時と一緒に飲むことになった。

「そういやお前カラクリのくせに酒とか飲めるっておかしくね?」
「別に。舌の機能は人間のように味覚をちゃんと感知できるし。オイルは必要だが正直味としてはこっちの方が上手いな」
「へぇ、あのじじいそんな高度な機能作れたんだな」
「ああ。あのじーさんには感謝してる。他にも色々な機能付けてもらったんだが、一番お気入りはあそこかな」
「?あそこってどこだよ」

銀時の問いに金時は微笑を浮かべ銀時を見据えた。

「男が一番感じる所」
「・・・!あのじじい・・・なんつー機能つけてんだよ・・・」

呆れたように銀時が呟くと金時は右手に持ったお猪口を傾けながら楽しそうに話す。

「女とヤル時は本当に気持ち良くてな。コレがなかったらカラクリには分からねェ快楽つーのを感じる事ができなかったわ」
「あ、そーかい。どうせ俺には縁のない話だよ」

男なら分かる快感だが、何分銀時は最近全然使ってないため金時の自慢ともとれる発言にへそを曲げたい気分を酒を煽る事で紛らわした。
それに気づいた金時はニヤニヤと憎たらしい笑みを湛える。

「なんなら貸してやろうか?」

何を?とは聞かずとも分かりきった事なので銀時は大声で拒否の姿勢を示した。

「誰がテメエと穴兄弟なんか!!」
「・・・」
「・・・」
「・・・銀時、声でかい」

しんと静まり返った店内で金時の冷静な言葉が返ってきた事で、銀時は己の失言に顔を羞恥で赤らめ、体を小さくして酒を啜った。
やがて再び店内に喧騒が戻り銀時はぎらりと金時を睨めつける。

「テメエのせいだぞバカヤロー」
「いや、そう言われてもな・・・」

暫し二人に沈黙が降りたが、その沈黙を破ったのは銀時だった。

「テメエ女をそんな風に扱ってたら好きな奴ができてもフラれるぞ」
「好きな奴?」

キョトンとした様子で銀時を見返す金時に銀時は更に言葉を続ける。

「テメエにだって好きな奴ぐらいできるだろ?」
「・・・好きな奴ね」

銀時の問いかけにほんの一瞬黙考した金時。
それに銀時が違和感を感じて「おい」と呼べば、何の感情も表さない金時の声が返ってきた。

「俺カラクリだからそういう恋とか愛とかよくわかんねーし」
「あ・・・そう・・・」

先程までの調子のいい金時の態度が急に大人しくなったのに若干の戸惑いを見せる銀時。
バツが悪そうに頭を掻きむしり空気を切り替えるため「よし!!」と一声上げ、とっくりを金時のお猪口に傾ける。

「?」
「今日は俺も付き合ってやるから存分に飲め!」
「いや、俺の金でそう言われてもな・・・」
「テメエが奢るって言ったんじゃねえか!」

何はともあれいつもの調子で二人は深夜遅くまで酒を煽った。
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