短編小説

□道具
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どこまでも続く闇しか見えない通路。
ヒタヒタと床を蹴る音は暗闇から発せられる誰のとも知れない足音。
数人で奥の奥に進み先頭に立つのは黒い忍装束に近い衣服を身に纏った男。
不機嫌なのかそうでないのか分からない表情を青白い顔に張り付かせ、目的の場所まで続く通路をただ黙々と歩く。
その背後に従う数人の男達は人の姿をした者もいれば、獣のような形をした二足歩行をする生き物――おそらく天人だろう――もいる。
彼らは前を歩く男に連れられ何も聞かされぬままただ歩を進めるのみ。
男のヒヤリとした態度に誰も何も言葉を交わせないまま付いて歩く男達の足が不意に止まった。

「ここだ」

先頭を歩いていた男が静かに前を指し示すと背後の男達が顔を覗かせ前を見やった。
そこは頑丈な格子が嵌められた一種の牢のような空間が有り、明かりも何もないそこはただただ暗闇が広がっているように窺えた。
男の牢の鍵を開け格子を潜り奥に進む姿を見て男達は困惑したように表情を曇らせる。
すると間を空けず男が暗闇から現れたかと思うと、手に何かを持ち引きずるような音を伴い男達の前に移動する。
その姿を視認できる距離に来た時、男達はその物体の正体に気付き顔を見合わせた。
男に髪を掴まれぐったりとした様子のそれは人で、髪は銀髪。
白い着流しは血や泥で汚れ今は黒ずんでいる。
それだけで男達の間ではその人物の正体がある男の異名として脳裏に蘇った。

――白夜叉

「この男は先日捕らえてな…上からの直々の命が下った」

その男を殺すのか、という考えが男達の間で過ぎった。
白夜叉といえば幕府に仇なした大罪人。
それを捕らえたとなれば白夜叉の残された道は死罪だと。
そう誰もが思ったであろう。
しかし、男が口にした内容はそれとは違うものだった。

「この男は我らが主、天導衆に献上する事になった。そこでお前達にはやってもらう事がある」

粗雑な扱いで放り投げられた白夜叉が床に体を打ち付けた際、呻くように体を床に擦り付けた。
男達が白夜叉の反応に疑問を浮かべ見ていると、白夜叉の口から熱を持った荒い呼吸が繰り返されるのが分かった。
更に食い入るように見つめていれば、拘束も何もされていない足をしきりに擦りあわせているではないか。
感のいい男達の何人かはそれで白夜叉が何を感じているのかを理解し、ニヤリと口元をいやらしく歪める。
白夜叉の傍に立つ男――朧は眉一つ動かさずに静かな声で言い放った。

「準備はしてやった。後はお前達でこの男を上に献上できる身体にしてやれ」

朧の言葉を合図に男達が白夜叉――銀時に向かい一斉に群がるのを朧は何の感慨も宿さない瞳で見下ろした。
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