短編小説

□兎の興味と遊び心
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事は簡単に進んだ。
久方ぶりに地球に降り立ち少々手こずりながらも目的は達成した。
太陽のように眩しい色彩を放つ銀髪のお侍――坂田銀時。
彼を出会い頭に襲い死闘の末昏倒させ連れ帰った。
我ながら褒める所は彼を殺さずに捕らえた事か。
本気で掛かったらいくら銀時でも死んでしまうかもしれないからだ。
ぐったりと意識を失った銀時を担ぎ春雨の母艦に戻れば阿伏兎がネチネチと小言を言ってきたのを笑顔でスルーし、神威は自室に篭ると手枷を銀時に嵌め彼が起きるのを待った。

「ッ……」
「あ、起きた?お侍さん」

何故自室に手枷があるのかという理由は内緒である。
阿伏兎が初めて神威の部屋に入った時、それを目にした彼の何とも言えないあの顔は忘れない。
別に他の誰が何と思おうと神威の持ち前のマイペースの前では、その想いも意味を成さない。
神威が銀時に声を掛ければ驚いたように赤い目を見張り、すぐに己の状況を理解した表情を浮かべた。
壁に吊るされ不格好な形の体と先程まで死闘で疲弊した銀時にはその枷から脱出する事は困難だろう。
まあ、逃げてもすぐに捕まえるが。
ニコニコと感情の読めない笑顔を見せてやれば、銀時は脂汗を垂らしながらも睨んでくる。
自分の状況が分かっていてもそれでもなお威勢がいいとは。
ますます興味が湧く。
赤い舌を思わず舌なめずりした神威はさて、といった風で腰掛けていた椅子から立ち銀時に歩み寄る。
ビクリと僅かに身を固くした銀時だが、それでも睨む姿勢は変えない。
そんな彼の前に立ちかがみ込み視線を合わせてやる。

「ねえ、お侍さん。君に一つ質問があるんだ」

笑顔はそのままだが細めていた瞼を僅かに開けて問う。
銀時は微かに片眉を上げて訝しんだ。
そんな銀時の仕草がまた可愛いと思ってしまう自分は少し彼に毒されてしまったか。
思わず銀時の髪に手を伸ばしさわさわと撫でるように触れてみる。
彼はすぐさま嫌がるように頭を激しく振ったので引っ込めた。
そのような抵抗をされたらますます虐めたくなるではないか。
己の心に湧き上がる加虐心にニヤリと口を歪めると、ズイっと顔を相手に突き出した。
至近距離で確認できる銀時の顔はよく見れば端正で、深い紅の瞳に吸い込まれそうだ。
神威は大層楽しそうに笑いながら、先ほどの質問の続きを言う。

「俺さ、生きてる奴らを殺すと凄く体が興奮して軽くイっちゃうんだよね」
「?」
「血とか見るともうヤバくてさ。それって俺だけなのかなって思ったんだ」

神威の言葉にますます銀時は混乱した顔つきなる。
それに構わずに神威は更にこんな言葉を言ってのけた。

「でも痛みに悲鳴を上げる奴らはどうなのかなって思ったんだよ。俺だけ気持ちよかったらなんか悪いと思って。だから痛みでもイケるのかちょっと実験してみたいんだけど」
「な……ッ」

ようやく銀時の声を聞いた気がする。
それに一笑を浮かべ手を胸の前に持ってくる。
手のひらを伸ばし力を込めれば皮膚にいくつもの血管が浮かび上がり爪も鋭利なナイフのように尖った。
それをグンっと銀時の腹に突き入れれば肉が裂ける感触と生暖かい血の温もりが服の袖を濡らした。

「ッ、うがあああああ!!」

耳元で聞こえる断末魔が神威の鼓膜を震わした。
とても心地好い悲鳴だ。
痛みに体をビクビクと痙攣させる銀時の体。
ジャラジャラと手枷に繋がる鎖が煩いくらい鳴る。

「どう?気持ちいい?イキそう?」
「ああああッ……がは!」

銀時は口から血を大量に吐き出し震える。
とても快楽があるとは思えない様相だが、神威には何故気持ちよくないのかという疑問しか浮かばない。

「あれ?気持ちよくないの?……じゃあこれはどう?」

肉を引っ掻き回すようにぐちゅりと音を鳴らしながら手を動かす。
それに銀時が再び悲鳴を上げてバタバタと体を暴れさせる。
唇から滴る血の雫が神威の手に落ちる。
すでに真っ赤に染まった手にはその程度の血の滲みなどまったく意に介さない。
寧ろ血を浴びる事は好きなので、もっと血で汚れてもいいと思える。

「はあ……はあ……グッ」

必死に痛みに堪えるように歯を食いしばり神威を睨みつけてくる銀時。
その姿が神威の中で酷く高揚し、体が興奮を覚える。
しかし、今は痛みでイケるかどうかを確かめているので結果が出ない事の方が気になる。
一度傷口から手を抜き取り染まる手を顎に添えて考え込む。

「うーん、やっぱりただ痛いだけじゃイケないか……」
「この……変態、野郎……ッ」

痛みに目を細めながら悪態をついてくる銀時の声など珍しく頭を使い思案する神威には届かない。
ならば仕方ない、と神威は懐から箱型のケースを取り出して中を開いた。
銀時がそれに目を向けていると、取り出したのは一本の注射器。
その中には無透明な液体が容器の中を満たしていた。
それに指を掛けいつでも刺せる準備をすると、ニコリと笑いかける。

「これね、今度春雨から流す薬でね。どんな痛みも快楽にする薬なんだ。すごいでしょ」
「ッ……!?」

驚き目を見開く銀時が体を震わした。
その姿にゆったりとした動作で笑いかけ左手で銀時の顎を掴み動かないように固定する。

「これならお侍さんもイケるんじゃないかな?」
「や、やめろ……!」

体の部位の全てを拘束さている銀時は唯一動く口で抵抗の言葉を発する。
しかし神威は意外そうな表情を浮かべた。

「あれ?射たなくていいの?このままだとお侍さん、痛いままだよ?」

神威の言葉にも銀時は拒絶の目を向けてくる。
神威は一瞬悩むように眉を八の字にさせたが、すぐに残虐な笑みへと変える。

「元々合意の上じゃないし。お侍さんの意見なんて聞く必要ないよね」
「や……ッ」

言って迷いなく針を銀時の白い首筋に射し込んだ。
徐々に液体が体内に入っていき、用無しとなった注射器を放り投げ銀時の様子を窺う。
銀時は最初僅かに呻き静かになったが、次第に頬が紅潮していき息も痛みによるものではない熱の篭った乱れになった。

「ハッ……あ、うう……」
「その様子だと薬が効いてきたみたいだね。じゃあ……」

言葉と同時に無遠慮に血まみれの傷口に指を這わした。

「あっ!や、やめ……っ」

先ほどの時の反応とは違う、明らかに快楽に浸った喘ぎ。
その反応に神威が嬉しそうに微笑んだ。

「やっぱり感じるんだね。お侍さんって痛みで感じちゃうなんて、本当に変態だね」
「!ふざけ……ッああ!」

グリっと爪で引っ掻き鼻の抜けた声を上げてしまう銀時。
その姿が面白く神威は傷口の肉を掴み徐々に力を込めていった。
痛みは銀時の中では快楽に転じ、悲鳴は嬌声へ。
ふと神威が銀時の下肢に目を向けると、布越しにある銀時の自身が窮屈そうに主張をし始めている。
それが可笑しくてつい声を上げて笑ってしまう。

「あははは。お侍さんのココ凄い事になってるよ?辛そうだから痛みだけでイっちゃう?」

神威の言葉に銀時は今度は羞恥で顔を真っ赤に染めながら首を左右に振った。

「嫌なの?そっか……、でもゴメンね。俺、お侍さんのイク所見たいからさ」
「い、いや……ああああ!!」

間髪入れず上がる嬌声。
顔は快楽に歪みだらしなく口からは唾と血の混ざりあった液が流れ落ちる。
腰もおそらく無意識だろうが揺らし、まるで全身が性感帯になっているかのようだ。
神威が止めと言わんばかかりにぐちゅ、と肉を摘み引き千切ると銀時の体が一際大きく震えた。
ビクンビクンと体を小刻みに動かしてからそのままグッタリと静まる。
それだけで銀時がイった事は容易に想像がついた。

「あはは。イっちゃたね、お侍さん。俺も、軽くイっちゃったみたい」

虚ろな瞳で床を見る銀時の血に濡れた頬に触れた。
顔は太陽のように暖かく、やけに親しみの深いものだ。

――……一緒に堕ちようか、ねェ?お侍さん



END

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